Architecture

屋根にぐるりとデッキがめぐる子どもにも大人にも
楽しい家

遊び心に感動

「面白いし、楽しいです」と我が家について語るのは藤川家の奥さん。雑誌を見ていて納谷新さん設計の家に目がとまったという。「どこか不思議な感じがあって、どちらの方角にも空が見えて、リビングには大きな窓がある。さらに、地中にもぐっているスペースもあって、それで、ぜひ見てみたいと思って」

その家は以前このサイトでも紹介した納谷さんの自邸だった(2014年09月22日の記事「すべての空間を居心地よく、楽しくしたかった」)。建築家への設計依頼を考えていた夫妻はさっそく見学にうかがうことに。「主人が気に入ったのは屋上緑化で、サッカーやフットサルが好きな人なので、屋上一面にはられた芝生を見て感動していました。わたしも“こんなことできるんだ”ってその遊び心に感動して。材料の選択とか、構造をそのまま見せているところも良くて、 “ここはこうしてほしい”とか細かいことを言わなくてもわたしが好きなテイストでつくっていただけるだろうと思って設計をお願いしました」


ダイニングとキッチンのあるレベルから見る。右手の吹き抜け部分にリビングがある。
ダイニングとキッチンのあるレベルから見る。右手の吹き抜け部分にリビングがある。


居場所をたくさんつくる

設計に際しては、「楽しい家にしたい」という希望とともに、納谷邸のようにいろいろな居場所をつくってほしいとも伝えた。「納谷邸で階段の途中に中2階のような場所があって、一方にはキャンプの道具が置いてありもう一方は畳になっているんですね。その畳のスペースで奥さんが洗濯物をたたんだりしているそうなんですが、“気分転換にその端に腰かけて脚をぶらんと下げて外の景色を見たりもしています”って聞いて、“あ、すごくいいな”と思って」 

「わたしは以前山登りをしていたんですが、山だったらどこに腰かけてもいい。それに近い感じがあってどこに座ってもいいというのがいいと思ったし、面白い居場所がいろいろとあるのもいいなと」


リビングから見る。奥さんの希望で大きな開口がつくられた。天井には奥さんが好きという木製の梁がリビングからキッチンまで整然と並ぶ。
リビングから見る。奥さんの希望で大きな開口がつくられた。天井には奥さんが好きという木製の梁がリビングからキッチンまで整然と並ぶ。
キッチンからデッキと中庭を見る。
キッチンからデッキと中庭を見る。
ダイニングからキッチンを見る。
ダイニングからキッチンを見る。
 
大きな開口を通して畳のスペースのある棟を見る。
大きな開口を通して畳のスペースのある棟を見る。


半地下+分棟式に

納谷さんにはさらに具体的に納谷邸で気にいった点をいくつか伝えたが、設計では前提として特殊な敷地条件を考慮する必要があった。敷地は藤川さんの実家が購入したものだったが、長い間空き地の状態で、周囲の住宅の中庭のような存在になっていたという。

そこで、高さにおいてもボリューム感においても周囲に対して圧迫感を与えない立ち方になるように、1層目を半分地下に埋めて2層目を分棟することに。さらに吹抜けもつくり、藤川邸の最大の特徴といえる屋根の部分も緑化する予定で設計がスタートした。


斜めに張られたデッキの上から見る。正面の棟には上階にダイニングとキッチン、下階に寝室、その途中のレベルにリビングが設けられている。右のデッキの上に張られた人工芝の上で朝食やランチを食べることもあるという。
斜めに張られたデッキの上から見る。正面の棟には上階にダイニングとキッチン、下階に寝室、その途中のレベルにリビングが設けられている。右のデッキの上に張られた人工芝の上で朝食やランチを食べることもあるという。
ダイニングに設けられた扉の前から見る。右手の畳のあるスペースの前を通ってぐるりとデッキの上をめぐるとキッチン近くにまで達する。
ダイニングに設けられた扉の前から見る。右手の畳のあるスペースの前を通ってぐるりとデッキの上をめぐるとキッチン近くにまで達する。


屋上にデッキを張る

「うちの主人が納谷邸の屋上緑化をすごく気に入ったので、屋上は緑化する計画だったんですが、予算的にも難しいことからあきらめてデッキにしようと。デッキにすれば出てすぐその上で遊べるし、ダイニングともつながっているのもなんかちょっとうれしいなと」 

藤川さんと娘さんは日曜日などにデッキのいちばん高い部分に敷いた人工芝の上で朝ごはんやランチを食べて過ごすこともあるという。「キッチンから出てぱっと食事を渡すことができるし回収も楽なので、あそこはけっこう活用していますね。あの人工芝は緑化をやめたのでそれにかわる面白いものが何かほしいねって話をしていたときに納谷さんに勧められたんです」


デッキには正面のダイニングとキッチン部分に設けられた扉からだけでなく、左手の畳のスペースからも出入りすることができる。
デッキには正面のダイニングとキッチン部分に設けられた扉からだけでなく、左手の畳のスペースからも出入りすることができる。


巣穴と畳の部屋

納谷邸と同様に下階は地面を掘り下げてつくった。「納谷さんの家よりももぐっている感があるので、巣穴みたいな感じがするんですね。よく寝室の窓からから中庭にウサギを出して遊ばせるんですが、そのときに動物の巣穴ってこんな感じなのかなあと」

リビングから半地下のスペースを経て階段を上がるとデッキと同じレベルに畳のスペースが設けられている。「ふだんはそんなには行かないんですが、娘の友だちが来たら必ず開放しています。デッキから行ったりいったん下に降りてから階段で上がったりとすごく楽しそうに遊び回っています。大人の方が来たらぜひあそこに泊ってもらいたいとも思っていて、とても使い勝手のあるいい部屋だなと思っています」


右側と正面のデッキの高さは庭から150㎝。
右側と正面のデッキの高さは庭から150㎝。
寝室の窓を開けて中庭を見る。
寝室の窓を開けて中庭を見る。
寝室から見る。この窓から飼っているウサギを中庭に出して遊ばせるという。
寝室から見る。この窓から飼っているウサギを中庭に出して遊ばせるという。


子ども部屋から畳のスペースに上る階段を見る。
子ども部屋から畳のスペースに上る階段を見る。
畳のスペースの下にあるスタディルームと左に中庭。
畳のスペースの下にあるスタディルームと左に中庭。


畳のスペースに上る階段近くからリビングの方向を見る。
畳のスペースに上る階段近くからリビングの方向を見る。
畳のあるスペースにはいったん半地下のスペースに下ってからまた上がる。
畳のあるスペースにはいったん半地下のスペースに下ってからまた上がる。


畳のスペースからもデッキへと直接出ることができる。天井はぐっと低くしており、梁まで〇cm。子どもたちは階段から上ったりデッキから入ってきたりとこのスペースを秘密基地のような感覚で楽しんでいるという。
畳のスペースからもデッキへと直接出ることができる。天井はぐっと低くしており、梁まで130~147cm。子どもたちは階段から上ったりデッキから入ってきたりとこのスペースを秘密基地のような感覚で楽しんでいるという。


奥さんが一番気持ちがいいといってあげてくれたのはダイニングとリビングだった。「ダイニングの椅子に座っていることが多いんですが、庭の緑を目に入れながら生活できるのがすごくいいですね。疲れたときにリビングに大の字になって寝ることがあるんですが、見上げたときに天井の構造(梁)が目に気持ち良くて、その時もこの家に住んで良かったなって」

娘さんに思いきりこの家を楽しんでもらいたいと話す奥さん、自身もこの家をとても楽しんでいるように見えた。


外壁のエンジ色は緑と補色関係にあることと、いずれデッキが退色してグレーになることを考慮して決められた。
外壁のエンジ色は緑と補色関係にあることと、いずれデッキが退色してグレーになることを見越して決められた。
当初は右側のほうへ寄せて建てる予定だったが、それだと実家の窓をふさいでしまうため左側へと移動した。それによって、窓を通して実家とのやり取りが容易にできるようになったという。
敷地は四方を住宅に囲まれた旗竿敷地。当初は右側のほうへと寄せて建てる予定だったが、それだと実家の窓をふさいでしまうため左側へと移動した。それによって、窓を通して実家とのやり取りが容易にできるようになったという。


藤川邸
設計 納谷建築設計事務所
所在地 東京都杉並区
構造 木造
規模 地上2階
延床面積 125.55m2