Architecture

傾斜地につくった塔状の家アウトドア気分のリビングは
擁壁に囲まれた吹き抜け空間

傾斜地につくった塔状の家 アウトドア気分のリビングは 擁壁に囲まれた吹き抜け空間

敷地の高低差は3.5m

敷地について、「日当たりのよい土地を探していて、以前からいい場所だと思っていた」という三石さん。すでに更地になっていた敷地は途中から斜面になっていて最高部では前面の道路と3.5mくらいの高低差があったという。

「まず、高さがあるので道路からの目線がそんなに気にならないんじゃないかと。それからそこに塔のような感じで建てたら眺めもすごくいいだろうし、地面のレベルから4階建てくらいの高さまでをふつうの住宅一軒で体験できるのは面白いのではないかと思いました」(三石さん)

旗竿敷地の傾斜した旗の部分に立つ三石邸。家の前側は地面を掘削している。
旗竿敷地の傾斜した旗の部分に立つ三石邸。家の前側は地面を掘削している。
玄関は前面道路と同じレベルだが以前は地下だった。
玄関は前面道路と同じレベルだが以前は地下だった。

雨にぬれずに階段を上がりたい

設計は友人の武田さんに依頼した。武田さんは敷地を見て「これはちょっと大変そうだな」と思ったという。「まずこの傾斜地にどう建てるかというところから考え始めないといけない。ただ建築家としてはこの場所でしか建たないものにできそうだなとは思いました」

難しいのは傾斜している土地に建てるだけではなかった。これに三石さんからのリクエストが加わり設計の難易度はさらに増したようだ。「敷地に高低差があるところでは外階段を上がって玄関があるパターンが多い。この家の並びも全部そうなんですが、そこを僕は家の中に入ってから上がりたいと。それに対して武田さんは“何を言ってるんだ?”みたいな反応でしたが、“雨にぬれずに階段を上がって行きたい”って言ったんです」

玄関から階段で上がるとリビング。リビングのある部分も掘削してつくられた。
玄関から階段で上がるとリビング。リビングのある部分も掘削してつくられた。
ダイニングから旗竿敷地の竿の部分を見る。
ダイニングから旗竿敷地の竿の部分を見る。

室内の壁=擁壁

以前は地下レベルであったところに玄関がつくられ、そこから階段を上がったところにリビングが配置されているが、このリビングも掘削して元の地盤面よりも低いところに位置している。しかし傾斜した部分の土をすべて取り除いたわけではないため、残った土を押さえるための擁壁が必要となる。三石邸ではこの擁壁を建築の壁として活用しかつ仕上げで隠さずに室内で露出して見せている。このコンクリート壁が独特の質感を空間に与えている。

「ふつうは木造2階建てというとフローリングの下にコンクリートの基礎があって土を押さえているわけですが、生活の中ではそれがわからない。それを室内で見せてRC造の質感みたいなものを出しています」(武田さん) 

そしてこの擁壁はふつうのコンクリートではなく、洗い出し仕上げでコンクリートの中にある骨材が浮きだしたような見えになっている。この住宅内部では見ることのない仕上げを三石夫妻は気に入っているという。

「洗い出し仕上げは外構で使われているイメージがあったので最初聞いたときは“え?”と思って、家の中にある状態をイメージするのが難しかったんですが、でもなんか面白そうだよねと」。奥さんは公園のような場所で使われているイメージがあったという。しかし現場で見たときには「“ああこうなるのか”という感じで思っていたより荒々しくもなく、住んでみて今すごく気に入ってます」と三石さん。

リビングにはキャンプ用のテーブルやランタンが置かれている。左がダイニングキッチン。
リビングにはキャンプ用のテーブルやランタンが置かれている。左がダイニングキッチン。
階段を上がったところからリビングを見る。左の壁と奥の壁は擁壁がそのまま室内の壁として使われている。
階段を上がったところからリビングを見る。左の壁と奥の壁は擁壁がそのまま室内の壁として使われている。
リビングの壁と同様に左と奥の壁は、型枠に遅延効果シートを貼ってコンクリートを打設し、型枠をはずした後にウォータージェットで表面を洗い出している。乾燥後、表面を固めるためにコーティング剤を塗っている。
リビングの壁と同様に左と奥の壁は、型枠に遅延効果シートを貼ってコンクリートを打設し、型枠をはずした後にウォータージェットで表面を洗い出している。乾燥後、表面を固めるためにコーティング剤を塗っている。
ダイニングキッチンの奥にはお風呂などの水回りが配置されている。
ダイニングキッチンの奥にはお風呂などの水回りが配置されている。
キッチン側からダイニングを見る。
キッチン側からダイニングを見る。
最後の最後までキッチンとダイニングテーブルの高さをそろえるか迷ったという。最終的には美しさを優先しこの形になった
最後の最後までキッチンとダイニングテーブルの高さをそろえるか迷ったという。最終的には美しさを優先しこの形になった。
キッチン側からワークスペースを見る。
キッチン側からワークスペースを見る。
吹き抜け途中につくられた三石さんのワークスペース。
吹き抜け途中につくられた三石さんのワークスペース。

光と風と開放感

三石邸はこの洗い出し仕上げのほかに吹き抜け空間の開放感と明るさも大きな特徴となっている。吹き抜け部分の高さは5.5m。そこに大きな開口がいくつも開けられ旗竿地ながら光がふんだんに注ぎ込む。日当たりの良さを気に入って入手したこの土地、当然ながら光をたくさん採り入れたいというリクエストがあった。

「明るくしてほしいというリクエストはしました。あと旗地は周りが家に囲まれているのでその閉塞感、圧迫感をどうやってクリアしていこうかと。さらにリビングで上を見上げたときに空が抜けて見えると住み心地の良さにつながるのではと思って、窓だらけにしてほしいとリクエストしました」(三石さん)

さらに通風に関してのリクエストもあった。「周りを囲まれているので風が抜けるのかどうかとても心配しました」。窓を全開にして寝たいというリクエスも出して、いまでは、真夜中でも2階の窓を全開して風が抜けるような状況にしていることもあるという。

吹き抜け部分を見上げる。高さは5.5mあり、大きく取られた開口部から光がふんだんに注ぎ込む。
吹き抜け部分を見上げる。高さは5.5mあり、大きく取られた開口部から光がふんだんに注ぎ込む。
手前が吹き抜けの途中につくられたワークスペース。三石さんはここでギターを弾くこともあるという。
手前が吹き抜けの途中につくられたワークスペース。三石さんはここでギターを弾くこともあるという。
2階には寝室が並ぶ。いちばん手前側が主寝室。主寝室の壁は中まで光を採り込むために施工途中でリクエストしてガラス張りに変更してもらった。
2階には寝室が並ぶ。いちばん手前側が主寝室。主寝室の壁は中まで光を採り込むために施工途中でリクエストしてガラス張りに変更してもらった。
ダイニングから玄関とリビングを見下ろす。
ダイニングから玄関とリビングを見下ろす。
左が主寝室。下のお子さんが成長したらこの部屋を2つに分けて主寝室と子ども部屋にすることも想定されている。
左が主寝室。下のお子さんが成長したらこの部屋を2つに分けて主寝室と子ども部屋にすることも想定されている。
夫妻ともにお気に入りという塔屋スペース。晴れた日には横浜のランドマークタワーが見えるという。
夫妻ともにお気に入りという塔屋スペース。晴れた日には横浜のランドマークタワーが見えるという。
奥のギターはギブソンとフェンダー。リビングの奥にもう1本テイラーのセミアコがあり、主にブルースを弾くという。
奥のギターはギブソンとフェンダー。リビングの奥にもう1本テイラーのセミアコがあり、主にブルースを弾くという。

つねにアウトドア感覚

住み始めてから4か月ほど。「ほんとに毎日が楽しい」という三石さん。家に居ながらにしてアウトドアみたいな感覚が体験できるのが特に楽しいという。「それとリビングだと半分ぐらい土に囲まれていて土につながっているという感覚があって、ちょっと暖かみがありますね。あと半分洞窟の中にいるような感じもあります」

「もともとキャンプとかアウトドアが大好き」だという三石さん。「夜には照明をぜんぶ落としてランタンやろうそくを点けてお酒をのんだりするのが楽しみで、いつもキャンプしている気分です」

4人のお子さんたちもこれで楽しくないはずがない。「相当喜んでいて走り回っています。高低差があるのでアスレチックの延長線みたいな感じもあって」。そういわれてみると、吹き抜け部分の柱梁のスケルトンが多く露出したつくりがアスレチック施設のように見えないこともない。このあたりもアウトドア好きの三石さんにはたまらないポイントなのではないだろうか。

ウッドデッキでは子どもたちが遊んだりべランピング的なことをしたりすることを当初より想定していた。
ウッドデッキでは子どもたちが遊んだりべランピング的なことをしたりすることを当初より想定していた。
2階のリビングから庭を見る。
2階のリビングから庭を見る。

三石邸
設計 武田清明建築設計事務所
所在地 東京都世田谷区
構造 木造
規模 地上2階
延床面積  115.01㎡