Architecture

道路沿いの狭小敷地に建てた家 小さな家ながら、光を享受し
開放感を感じて暮らす

道路沿いの狭小敷地に建てた家 小さな家ながら、光を享受し 開放感を感じて暮らす

道路沿いの小さな敷地

関根邸の敷地は杉並区にあり最寄りの駅は新高円寺だ。関根さんは学生の頃、高円寺で1人暮らしをしたことがあり「もし可能であればまた高円寺のあたりに住みたいと昔から思っていた」という。奥さんは関西の出身だが阿佐ヶ谷の商店街の雰囲気が気に入り、そこで、高円寺、阿佐ヶ谷界隈で土地探しをすることに。

「しかし売りに出ていたのは広めの土地ばかりで、適当なものがなかなかなかった。そうこうしているうちに、道沿いのとても小さな土地がわれわれの手の届きそうな値段で出ていたので、ここにしようかという話になったんです」(関根さん) 

屋根/天井の形状は斜線制限によるもの。ソファの下が抜けていて光と風が抜ける。
屋根/天井の形状は斜線制限によるもの。ソファの下が抜けていて光と風が抜ける。
ダイニングから見る。階段部分の手すりには黒く塗ったスチールを使った。
ダイニングから見る。階段部分の手すりには黒く塗ったスチールを使った。

室内を広く見せる

設計は知り合いのsinatoの大野さんに依頼。夫妻はまず大野さんに「面積が狭いので、広く見えるようにしてほしい」とリクエスト。また「なるべく段差をつくり、光が隅々にまで行きわたるようにしたい」とも伝えたという。

こうした要望を受けて、幅が3mととてもコンパクトな中で、2階はベランダと室内の床のテイストを合わせて、窓を開けると部屋が外にまで延長して見えるようにした。さらに、これはコストをセーブするためでもあったが、仕切りをできるかぎりつくらないようにして、室内でもある程度の開放感を感じられるつくりにした。

奥さんの希望はアイランド型のキッチンだったが、面積の関係からL字になった。冷蔵庫も同じ理由で業務用のものを選択。ステンレス製のキッチンは奥さんの希望で、壁は冷たい印象にならないように水色のタイルにした。
奥さんの希望はアイランド型のキッチンだったが、面積の関係からL字になった。冷蔵庫も同じ理由で業務用のものを選択。ステンレス製のキッチンは奥さんの希望で、壁は冷たい印象にならないように水色のタイルにした。
ダイニングキッチンのレベルから見る。窓を開けると室内の床がベランダにまで延長するような感覚があり実際以上に広く感じられるという。左はスタインバーグによって描かれた雑誌『ニューヨーカー』の表紙をポスターにしたもの。
ダイニングキッチンのレベルから見る。窓を開けると室内の床がベランダにまで延長するような感覚があり実際以上に広く感じられるという。左はスタインバーグによって描かれた雑誌『ニューヨーカー』の表紙をポスターにしたもの。

光が下と横に抜ける

光については、「以前住んでいた賃貸マンションでは部屋の奥が暗くなっていたので、この家では光が全体に行きわたるようにしたかった」という。スキップで各レベルをつなぎ、また、階段の蹴込み板を無くして踏み板と踏み板の間から光が抜けるようにした。ロフトと呼んでいる小上がりにある木の壁を格子状にしたのも光が抜けるようにするため。同じ理由で1階の床の一部にFRPのグレーチングを採用して地下部分に光が落ちるようにした。

デザインのテイストでも希望があった。「ニューヨークのアパートメントみたいなおしゃれな雰囲気にしてほしい」というのがそれで、欧米の都市生活の空気感を出したかったという。そのために、手すりやサッシの一部、さらに玄関ドアも黒く塗ったスチールが使われた。

水回りスペースから玄関を見る。壁にかかっているのはサヴィニャックによるホテル・フロベールのポスター。
水回りスペースから玄関を見る。壁にかかっているのはサヴィニャックによるホテル・フロベールのポスター。
階段は踏み板をスチールでつないだデザイン。蹴込み板がないため光が抜け圧迫感もない。
階段は踏み板をスチールでつないだデザイン。蹴込み板がないため光が抜け圧迫感もない。
道路側の横長につくられた開口はプライバシーを考慮して歩行者から内部が見えない高さに設置されている。
道路側の横長につくられた開口はプライバシーを考慮して歩行者から内部が見えない高さに設置されている。
道路側の廊下から見る。左の木の壁が格子状になっているため圧迫感がなく光も抜ける。同様に床に使われたFRPのグレーチングが地下のスペースへと光をもたらす。
道路側の廊下から見る。左の木の壁が格子状になっているため圧迫感がなく光も抜ける。同様に床に使われたFRPのグレーチングが地下のスペースへと光をもたらす。
玄関を入ってすぐ目の前に見えるのがロフトと呼ばれているスペース。仕切られていないが、関根さんは「自分の個室みたいなイメージでとても気に入っている」という。大きな開口から見える隣地の緑が目に心地よい。
玄関を入ってすぐ目の前に見えるのがロフトと呼ばれているスペース。仕切られていないが、関根さんは「自分の個室みたいなイメージでとても気に入っている」という。大きな開口から見える隣地の緑が目に心地よい。

夫妻が務めているのは服飾関係の会社のため、それと関連したリクエストもあった。「2人とも服飾関係の会社にいるので、洋服と靴がとても多いんです。それでクローゼットをふつうの家よりも広く、一部屋分くらい取ってほしいとお願いしました」(奥さん)

このリクエストから実現したのが玄関から半階分ほど降りたレベルにつくられたスペースで、ここにはショップのバックヤードのように洋服が大量に収納されている。奥の寝室に至るまで左右にずらりと並ぶさまを見るとまさにショップにでもいるような感覚になるほどだ。

玄関付近から見る。住宅には珍しいずれた断面構成が面白い。左側の部分には靴が置かれているがショップのディスプレイ棚のような印象を受ける。
玄関付近から見る。住宅には珍しいずれた断面構成が面白い。左側の部分には靴が置かれているがショップのディスプレイ棚のような印象を受ける。
スチール製の黒い玄関ドアの隣には黒い縁の姿見が置かれている。
スチール製の黒い玄関ドアの隣には黒い縁の姿見が置かれている。
寝室側から玄関方向を見る。天井のグレーチングを通して光が落ちてくる。
寝室側から玄関方向を見る。天井のグレーチングを通して光が落ちてくる。
玄関近くにも額装されたポスターが置かれている。右はW.アレンの映画『アニー・ホール』から材を取って描かれたもの。
玄関近くにも額装されたポスターが置かれている。右はW.アレンの映画『アニー・ホール』から材を取って描かれたもの。
ぎっしりと洋服の詰まった半地下のスペース。すこし量を減らせばショップのディスプレイのようになるだろう。
ぎっしりと洋服の詰まった半地下のスペース。すこし量を減らせばショップのディスプレイのようになるだろう。

「マンションからこのようにステップが多くて少し変わったつくりの家に引っ越して来たんですが、違和感があったり住みづらいといったことはなかったですね。すぐになじめたし、最初から住みやすかったですね」と奥さんは話す。この家に越してきてから半年ぐらいで大野さんが遊びにやって来たときも「住むのが難しい家だけど上手に住んでるね」と言われたそうだ。設計者から見ても無理なく住みこなしているように映ったのだろう。

関根さんがいることが多いのは2階のソファでとても気に入ってるという。あと1階のロフトと呼んでいる場所もお気に入りで「大きな窓もあってきちっと仕切られているわけでもないんですが、自分の個室みたいな感じがあってとても気に入ってる」と話す。お2人ともに「とても落ち着く」というこの家、小さな家ならではの身体にフィットするようなスケール感ともあいまってそうした感覚が生み出されているのだろう。

スチールの玄関ドアは特注でつくられたもの。
スチールの玄関ドアは特注でつくられたもの。
玄関は自転車の置かれたところから奥に進んだ場所にある。
玄関は自転車の置かれたところから奥に進んだ場所にある。
外壁の色は「ネットで見つけた欧米のおしゃれな家」の写真を示し、それを参考に建築家から提示されたもの。左下の部分は防犯上玄関部分の目隠しになるものがほしいとのリクエストから建築家から緑の壁のアイデアが出された。
外壁の色は「ネットで見つけた欧米のおしゃれな家」の写真を示し、それを参考に建築家から提示されたもの。左下の部分は防犯上玄関部分の目隠しになるものがほしいとのリクエストから建築家から緑の壁のアイデアが出された。

関根邸
設計 大野力 / sinato
所在地 東京都杉並区
構造 木造(一部RC造)
規模 地上2階地下1階
延床面積 71.68㎡