DIY

元鉄工所を気持ちのいい空間に柔らかな発想で生まれた家に
子どもたちも大喜び!

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靴職人の曽田耕さんの家は、東京下町の元鉄工所。

「建物内に残っていた鉄屑を処分するのに半年、さらに半年かけて壁を削ったり和室やキッチンなどの内装工事をして、家族が住めるようになるまで約1年かかりました」

内装工事をするにあたり、必要なものがあってもまずは買わずに、元々ここにあったものを流用することにしているそうだ。たとえば、キッチンのレンジフードは元々ここで使われていた台所のシンク。棚として使われていた木製品も解体して再利用している。建具や畳などは解体された家から譲り受けたものだ。

「解体した材料は手元にストックしておきます。その材料で作れば、わざわざ材料を買いにDIYショップに行く必要もないので時間がかからないのがいいんです。ここに棚が欲しいって思ったら、パパッと作れてしまいますから。不要になったら撤去するのも気が楽です(笑)」

もちろんそこには曽田さん流のこだわりもある。

「どこどこのなになに、とわかるものは好きではないんです。メーカー名は見せたくないですし、書いてあったら消してしまいます(笑)。違和感を感じるセンサーは常に持っていたいと思っています」


家の中の壁も外壁用のボツボツのある壁だったので、妻の京子さんと4日がかりで、サンダーで削って平らな壁にしたそう。
家の中の壁も外壁用のボツボツのある壁だったので、妻の京子さんと4日がかりで、サンダーで削って平らな壁にしたそう。
お友達にいただいたというお気に入りの照明。奥の階段の踊り場にかけてあるバッグは曽田さんの作品。
お友達にいただいたというお気に入りの照明。奥の階段の踊り場にかけてあるバッグは曽田さんの作品。


リビングにぽっかり浮いた島のような和室は、40センチほど床を上げてある。襖を閉めれば独立した部屋に。奥が子ども部屋。
リビングにぽっかり浮いた島のような和室は、40センチほど床を上げてある。襖を閉めれば独立した部屋に。奥が子ども部屋。

壁のCDケースはなんと焼き鳥用のコンロ。「錆をキレイに落してペンキを塗りました。鉄製のものは厚みが出ないのが好きです」
壁のCDケースはなんと焼き鳥用のコンロ。「錆をキレイに落してペンキを塗りました。鉄製のものは厚みが出ないのが好きです」
消費電力の少ないLED電球も、出始めは青白い色ばかりだったけど、お土産でもらった和紙資料館の和紙を傘にしたら和める色に。
消費電力の少ないLED電球も、出始めは青白い色ばかりだったけど、お土産でもらった和紙資料館の和紙を傘にしたら和める色に。
和室と子ども部屋の回りは一周できるアイランド型の作り。子どもたちが元気よく島の回りを走り回る。床の下は収納スペースに。
和室と子ども部屋の回りは一周できるアイランド型の作り。子どもたちが元気よく島の回りを走り回る。床の下は収納スペースに。
テーブルは2台とも、益子のKINTAさん(https://100life.jp/feature/8992/)の作品。「KINTAギャラリーと自負するほど、KINTAさんの作品を数多く収蔵してます」
テーブルは2台とも、益子のKINTAさんの作品。「KINTAギャラリーと自負するほど、KINTAさんの作品を数多く収蔵してます」


3階が家族のためのスペース。

「3階はもともとは事務所として使われていたようです。壁に棚が作り付けられていて細長い空間になっていたので、棚は取り外し、部屋の中央に和室と子ども部屋を作りました。ここをグルッと一周できるようにしておけば、子どもたちは勝手にグルグル走ってくれるるだろうと目論んだら、計画通り、元気よく走ってくれました(笑)」

和室と子ども部屋は床を上げて、その下を収納スペースとして活用している。

奥様の京子さんは耕さんと同じ靴の作家。その前は布を扱う仕事をしていたので、カーテンなどの布ものを縫うのは得意なことのひとつ。斜めのガラス窓のレースのカーテンは、丈を別布で加えて素敵にアレンジ。和室にかけられた布のセレクトのセンスも抜群だ。


キッチンもDIY。天板はDIYショップでシナ合板を購入。レンジフードはもともとここにあったシンクを流用。
キッチンもDIY。天板はDIYショップでシナ合板を購入。レンジフードはもともとここにあったシンクを流用。
キッチンの壁に掛かっているものそれぞれの鉄のカタマリ感がいい。「プライヤーは3階でしょっ中使うものなのでここに」
キッチンの壁に掛かっているものそれぞれの鉄のカタマリ感がいい。「プライヤーは3階でしょっ中使うものなのでここに」
古道具屋で見つけた氷削り器。「刃を研いだらちゃんと使えました。子どもたちが自分のおやつをこれで楽しんで作っています」
古道具屋で見つけた氷削り器。「刃を研いだらちゃんと使えました。子どもたちが自分のおやつをこれで楽しんで作っています」


氷削り器がキッチンの顔に。

「キッチンの大きさやカタチはどうしたらいいのか、段ボールでシュミレーションしながら試行錯誤して、今のカタチになりました」

シナ合板の大きな天板は珍しく購入した材料だそうだ。ガスコンロも自分で取り付けた。

「あまりの手作り感溢れるキッチンに、ガス会社の方は内心驚いていたようですが、無事に検査も通りました」

ピカピカ光る水道の蛇口などはメッキをはがして使っている。ジューサーもメッキをはがしていい雰囲気に。

「氷削り器は、子どもたちのおやつマシーンです。自分たちでかき氷を作って、無添加のフルーツのシロップをかけて食べています。以前は冬の間はしまっていたのですが、最近は1年中出しっぱなしです。このカタチも素材感も好きなので、ずっと置いてあっても気にならないんです」


向かって左側が子ども部屋。通気のために窓が開く。子どもが破った障子紙は、子ども自身で修復するきまりなのだそうだ。
向かって左側が子ども部屋。通気のために窓が開く。子どもが破った障子紙は、子ども自身で修復するきまりなのだそうだ。
子ども用キッチンコーナー。ちゃんとガスレンジの把手も蛇口も壁についている。ここは落書きもオッケーの場所なんだとか。
子ども用キッチンコーナー。ちゃんとガスレンジの把手も蛇口も壁についている。ここは落書きもオッケーの場所なんだとか。
リビングのライトの下の壁に付いているのは、子どもと一緒に古いミシンを分解したパーツ。子どもたちがここで遊ぶのだそう。
リビングのライトの下の壁に付いているのは、子どもと一緒に古いミシンを分解したパーツ。子どもたちがここで遊ぶのだそう。
勉強机を使っているのは10歳の杏ちゃん。「手狭になってきたので、杏の部屋を作ってあげないとと思っています」
勉強机を使っているのは10歳の杏ちゃん。「手狭になってきたので、杏の部屋を作ってあげないとと思っています」
2段ベッド。上がお姉ちゃんの杏ちゃん。下が6歳の柑くんが使用。独立性を高めるために板で柵を作って欲しいと頼まれたそう。
2段ベッド。上がお姉ちゃんの杏ちゃん。下が6歳の柑くんが使用。独立性を高めるために板で柵を作って欲しいと頼まれたそう。
「KINTAさんのお弟子さんの横溝 創くんに、子ども部屋の窓とドアと机を作ってもらいました」
「KINTAさんのお弟子さんの横溝 創くんに、子ども部屋の窓とドアと机を作ってもらいました」


鬼ごっこもかくれんぼも思う存分!

曽田宅には子どもが楽しめるしかけがたくさんある。秘密基地のような小さな窓がついた子ども部屋。部屋の回りはグルリと一周できるので、鬼ごっこも最高に楽しい。

「箱形の子ども用のキッチンセットを前の家で使っていたのですが、ここに引っ越して置く場所がなかったので、バラバラにして壁に取り付けました」

壁についた謎のハンドルも子どものためのもの。

「子どもと遊ぶなら自分も楽しみたいので、よく分解遊びをします。古い足踏みミシンを分解したら、ハンドルやレバーがカッコよかったので壁につけてみました。子どもたちはよくこの前でハンドルやレバーを回してよく遊んでいますよ」

曽田さんのお子さんは、10歳の長女・杏ちゃん、6歳の長男・柑くん、3歳の次男・林くんの3人兄弟。

「そろそろ長女の杏の部屋を作らないとと思っています。仕事場の上の吹き抜けに床材だけ張ってやって、壁などは自分で作らせようかとも思っています。自分で作れば愛着も出るし壊れたら自分で直せるし、なにより自分の好きなように部屋を作ることができますから。木材で作ることが難しかったら、段ボールでもいいと思っています」


1階。向かい側が曽田さんの仕事場。ガマグチの革の色の組み合わせはこの玄関部分で考えることが多いそう。
1階。向かい側が曽田さんの仕事場。ガマグチの色の組み合わせはこの玄関部分で考えることが多いそう。
障子を外すと中にズラリと靴が。個人のお客様がいらっしゃった時に、素早くショールームに変身する。
障子を外すと中にズラリと靴が。個人のお客様がいらっしゃった時に、素早くショールームに変身する。
「うちの子ども用の靴です。キラキラかわいい靴にしたかったようで、ワッシャーを付けたいというので、縫い付けてあげました」
「うちの子ども用の靴です。キラキラかわいい靴にしたかったようで、ワッシャーを付けたいというので、縫い付けてあげました」
風呂場に窓を開けてもらった際に出たものを靴脱ぎの台に。「外壁の鉄筋がどの間隔で入っているかわかるので重宝しています」
風呂場に窓を開けてもらった際に出たものを靴脱ぎの台に。「外壁の鉄筋がどの間隔で入っているかわかるので重宝しています」
“電気”をテーマにした企画展に出品した作品。コードがすっぽりと革で覆われていて、壁に掛けられるようになっている。
“電気”をテーマにした企画展に出品した作品。コードがすっぽりと革で覆われていて、壁に掛けられるようになっている。
靴の縫い目を金槌で叩き、縫い目の糸をなめらかにすると足当たりが良くなるそう。
靴の縫い目を金槌で叩き、縫い目の糸をなめらかにすると足当たりが良くなるそう。http://www.sodako.com/index.html


1階の仕事場にはショールームも併設。

1階が曽田さんの仕事場だ。ここに越してきて約7年の間に、仕事がしやすいように水回りを移動させたり、薪ストーブをつけたりと、少しづつレイアウトが変わっているそうだ。

「この頃は個人のお客様がいらっしゃることも増えたので、靴を見てもらえるようなスペースを新しく作りました」

障子の建具を使った棚を開けると、ズラリと曽田さんの靴が並ぶ。

「この棚は2時間位で作ってしまいました。手元にあるもので作ると、自分でも思いつかないような発想が生まれるのが楽しいです。同様に、靴づくりでも、自分で選んだものではない素材……靴やカバンのメーカーからいただいた端材を使うこともあります。靴の色の組み合わせも、あれこれ悩まずに直感で決めます。それはKINTAさんに教わった物作りの心得のひとつなんです」

曽田さんの住まいと作品から、物づくりに対する共通の哲学が伝わってくる。”考えすぎない” “手元にあるものから作る”ことから生まれるものづくりの柔軟さ。自由な発想は、楽しさと豊かさを住まいに運んできてくれるようだ。


中二階の手すりから1回を見下ろす。「黄色いタープを張ったのは最近です。あそこに屋根があるとお客様も落ち着くようです」
中二階の手すりから1回を見下ろす。「黄色いタープを張ったのは最近です。あそこに屋根があるとお客様も落ち着くようです」
「家族の中で自分だけプライベートルームがないことに気づいて、仕事場の上に床を張って昼寝部屋を作りました」
「家族の中で自分だけプライベートルームがないことに気づいて、仕事場の上に床を張って昼寝部屋を作りました」


ストーブ用の薪が家の数ヶ所に積まれている。「ここは子どもたちもよく通る場所なので、崩れないようにカスガイを打ちました」
ストーブ用の薪が家の数ヶ所に積まれている。「ここは子どもたちもよく通る場所なので、崩れないようにカスガイを打ちました」

外の光をたっぷり取り入れるために、たくさんの建具でDIYしたエントランス。「風も抜けるように工夫しました」
外の光をたっぷり取り入れるために、たくさんの建具でDIYしたエントランス。「風も抜けるように工夫しました」
元鉄工所らしい武骨な外観。シャッターは意外に軽いので、子どもでも開け閉めできるそう。
元鉄工所らしい武骨な外観。シャッターは意外に軽いので、子どもでも開け閉めできるそう。
ペンキ塗りは外で。刷毛の跡が床の模様のよう。「この家に来てからペンキ塗りの時に養生をしなくていいのがすごく楽です」
ペンキ塗りは外で。刷毛の跡が床の模様のよう。「この家に来てからペンキ塗りの時に養生をしなくていいのがすごく楽です」
鉄工所時代のウインチ。今のところトラックの荷台から薪を降ろす時ぐらいしか出番はないそうだけど、男っぽくてカッコいい。
鉄工所時代のウインチ。今のところトラックの荷台から薪を降ろす時ぐらいしか出番はないそうだけど、男っぽくてカッコいい。