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日々、人生を楽しみつつ暮らす家一目ぼれで購入した家を
さらに磨き上げて
それまで賃貸の住宅に住んでいたが、実は、購入するつもりで家を探していたわけではなかったという。むしろ、ずっと賃貸でいいとも思っていた。ところがある日、家の斜め前の土地が空いたので、この土地を買ったらどんな家が建つだろうかと、友人で建築家の西村夫妻に相談をしてみたという。
築50年の家との出会い
これがきっかけとなって新聞の折り込みチラシを見るようになり、ある日、チラシの写真の雰囲気が良さそうだったので中古の物件を見に行くことに。「冷やかしで見に行ってみようか、場所も近いし」。こんな軽いノリだったという。
そしてこの家と出会った。「すごい良かったですねー」と青沼さん。「オーナーの方がその当時70代後半のすごく品のいいおばあさんで、1人で住んでいらした。その方の雰囲気が良かったというのもあるかもしれませんが、とにかく家の雰囲気が良かったんです」
その前オーナーの女性がもともとインテリアや建築の仕事をされていた方で、この家も自身で建てたものだった。「つくられた50年くらい前はすごいモダンな家だったんだろうと思うんですが、彼女のイズムみたいなのがそこかしこに感じられて、それがこの家の雰囲気をつくり出していた」と青沼さん。
その方針のもと、庭とリビングなどの主スペースのある2階レベルでは、サンルームだったスペースを石張りの廊下にして、しかもキッチンよりも先の方へと延長。庭側のサッシはアルミから木製へと変えられた。事務所として使われていたスペースを和室にし、リビングの奥のスペースに大きめの書棚を設けたのは青沼夫妻のリクエストだった。
庭は自ら手作り
庭にも手を入れた。庭にあったモミジの木などが素晴らしかったこともこの家を気に入った理由のひとつだったが、庭の状態は理想的なものでなかったという。でも、どうしたらいいかが分からず、1年ほど手つかずの状態が続いた。「結局、自分でやりながらでないと分からないということだったんですね」
ここでまたもうひとつの出会いがあり、そこで状況が大きく動いた。たまたま、奥さんが学校へのお子さんの送り迎えの途中で庭に手を入れている職人さんに声をかけたのだという。「そして、実は…ということで状況をお話しして、“どうしたいのかもわからないので、一緒にやってもらいたい”とお願いしました」。引き受けてもらい、それから、週末になると、青沼さんと職人さんの2人で朝から晩まで作業を行うことがしばらく続いた。
庭は、家から見て右の端がちょっと高くなっているが、元々はそこから左へと徐々に低くなっていた。それを2人で右端以外の部分をならしてまずはスペースづくり。その小山になっている部分の土を止めるように組まれた大きな石はすべて庭にあったもので、これも2人で移動した。庭に敷いてある石は、青沼さんが選んで購入したものを職人さんと2人で平和島からトラックで運んで2階まで上げたものだ。
庭で食材の栽培も
奥さんは、この庭に食材に使える植物を何種類か植えている。素材や製造工程にこだわったアルチザンフードという加工食品を輸入・販売する仕事をしていることもあって、家で手軽にできることは自分でやろうかと思い始めたのだという。
ミョウガ、山椒、フキ、アケビ、モロヘイヤ…。あまり手をかけずとも育つものを植えているという。「山椒でちりめん山椒をつくったりとかあとアケビの新芽っておいしいのご存じですか? アケビって皆さん実ばかり食べると思うんですが、実は春先に新芽だけをつんでお浸しにすると、ほろにがくてとてもおいしいんですよ」
それから、お子さんへのこんな思いも。「今はスーパーへ行くと夏の食べ物でもそれこそ1年中手に入りますが、その分、季節感がなくなってきている。でも庭で育てていると、すごく季節感が分かるじゃないですか。“ミョウガが出てきたからもう夏だね”とか、そういう感じで自然に身についていくことってあってほしいなと思うんです」
こんなふうにしてくれてありがとう
「この家を通して、前のオーナーの方が生きてきた人生のスタイルみたいなのにどこかあこがれみたいなものがある」という青沼さん。青沼夫妻と前オーナーとは、家は単に寝たり食べたりするだけの空間ではなくて、そこで人生を楽しみつつ暮らしたいという思いまでが深く通じ合っているのではないか、そのように思えた。
前のオーナーの女性は、リフォームしてからもこの家に遊びに来られるという。「最初に来たとき、“こんなふうにしてくれてありがとう”って言って喜ばれました」という奥さんの言葉が印象に残った。
設計 西村嘉哲+西村幸希建築設計
所在地 東京都大田区
構造 混構造
規模 地上3階