Design
ミラノ・サローネ特集2014 -4-技術とオリジナリティで覇を競う
イタリアメーカーの独創的キッチン
Marchi マルキ
キッチンは独立した舞台装置
細部へのこだわりがスタイルを完成する
一見しただけでは何を言いたいのかがわからない。ただ、ミニマリズムだとか最新のテクノロジーといった路線とは違うようだ。とにかく、しげしげと眺めていたくなる、それがマルキ社のキッチンである。北イタリア・クレモナで40年の歴史を歩んできた同社の製品は、創業者で現社長のジャンルイジ・マルキの人生経験に大きな影響を受けている。70年代、同社が旗揚げした頃は米ソによる宇宙探査競争が激しくなり、映画では「サタデーナイト・フィーバー」が一世を風靡し、マルキ社長はピンクフロイドのコンサートに行き...。懐かしのスタイルとストーリーをそっくりそのまま再現したかのようなキッチンが展示されているのである。もちろん、アレンジはされているのだろうが、なによりも“安っぽさ”が全く感じられないことに関心する。その理由は、同社が言うところの「素材を惜しまず手間を惜しまず」にあるのだろう。ディテールを作り込んであるからこそ、“観客”は安心してその世界に没頭できるのだ。
Doimo ドイモ
機能、デザイン、価格の3拍子揃え
躍進する創業20年の新興メーカー
キッチンメーカー業界では、著名なデザイナーに頼らず、社内で独自設計するところが多い。技術的な部分でデザイン優先にしにくいという理由が大きいが、だからといって機能優先だけでは製品アピールに欠けてしまう。ヴェネト州トレヴィーゾで1994年に創業したドイモ社は、他社に比べれば後発だけにマーケットリサーチを重視し、顧客が求める「最新の機能と高いリサイクル性、美しく飽きのこないデザイン、ミディアムクラスの価格」を実践し成長を続けている。昨今人気の北欧風デザインは若い世代向きの感もあるが、同じデザインでもマテリアル次第で印象は著しく変わる。たとえばオークでも表面仕上げの違いで4種あり、ラッカー塗装ガラスなら26種類揃う。しかも、どれもが微妙なニュアンスの中間色であるところに綿密なリサーチの結果が伺える。グローバルスタンダードを目指して着実に進歩を続けるメーカーである。
Alpes アルペス
ステンレスを縦横無尽に操り
独自のキッチンコンセプトを確立
衛生的で耐久性に優れたステンレスはキッチンの素材としてプロユースの厨房から一般家庭まで幅広く使われている。しかし、その無機的な質感が冷たく、実用一辺倒な印象を与え、楽しくユニークなキッチンというイメージとはなかなか結びつきにくい。ヴェネト州バッサーノ・デル・グラッパというアルプス山脈の裾野に位置するメーカー、アスペン社はステンレスの特性を知り尽くしているというニコ・モレット社長自らがデザインする。見た目のインパクトより、どの部分をどの程度削ればぶつけても怪我をしにくく掃除もしやすいかといった職人的見地から設計するのだが、それが結果的にオリジナリティが随所にちりばめられたキッチンへと仕上がっていくのである。モードやマーケティングに左右されない、という謳い文句はよく耳にするが、アスペン社のそれはまぎれもなく真実である。
Valcucine ヴァルクチーネ
本当のサステイナブルとは何か
その追求が技術革新を生む
多くの企業が利潤を第一に追求し、その次に品質、安全性を求め、そして、環境への配慮は後回しにされてきた。この点に注目し、企業姿勢として正しい道は何かを考えることによって、現在のヴァルクチーネ社が築き上げられたという。人目を引く斬新なデザインがもてはやされた20世紀終わりから、21世紀に入ってエコロジカルという言葉が注目を集めるようになり、今やその言葉は表層的で陳腐な常套句になってしまった。エコロジカルな企業活動というのはありえない、あるのは地球環境になるべく悪影響をもたらさない、つまりサステイナビリティだというのがヴァルクチーネ社の行きついた結論である。CO2の排出は量は抑えるとしてもなくすことはできない。ならば後は、製品の行く末に責任を持つ、つまり、リサイクル、リユースしやすく、有害物質を極力排除することに尽力する。もちろん、長く使えることを大前提に。これが、ヴァルクチーネ社が目指すサステイナビリティ誘導型技術革新だ。スマートでエレガントな見た目の裏にはさまざまな努力が隠されているのである。
Minacciolo ミナッチョーロ
奇抜と絶妙の間を縫う
イタリア式遊びのセンス
容赦なく降り注ぐ水を浴び、全体にサビを浮き上がらせたキッチン。それが何を示すかの説明は特になく、判断は受け手次第、まさにイタリアが得意とする謎かけスタイルだ。正解は1つではない上、ありとあらゆる答えが正解であり、要は受け手がそれについて自由に発想し、理想とするキッチンに組み込めることができれば正解なのである。人々はまるでテーマパークで遊ぶように彷徨い、好き嫌いを言い、その理由を勝手放題に喋る。ミナッチョーロ社の狙いは話題になることなのだから、それで構わないようだ。オフィシャルには「前回のユーロクチーナで発表したプロ向けシリーズをダウンサイジングし、一般家庭にも導入しやすくした」のが今年のラインナップのプロフィールだが、なかなかどうして個性的で、扱う側のセンスが問われそうである。
Laurameroni ラウラメローニ
キッチンに家具としての視点を
デザイナーが導き出す造形美
ユーロクチーナの会場ではなく、家具メーカーの展示会場でもキッチンを試験的にプレゼンテーションしているところが幾つか見受けられた。そうしたキッチンの共通点は、家全体の雰囲気を形成する家具の1つとして見なされていること。部屋から部屋へと移っても流れを止めない、そんなイメージを提案しているようだ。その典型的な例がラウラメローニ社で、デザイナーが職人と共同で開発した独特の表面仕上げをセールスポイントとするだけあって、キッチンもその収納トビラ、ウォールパネル、キャビネット等平面部分のほとんど全てを自社オリジナルの「デコール」システムで顧客の好みの仕上げにするという。その効果を強調するため、キッチンそのものは徹底的にシンプルで、凹凸を極力排している。調理という作業のイメージは湧きにくいが、キッチンの多様なあり方を考えさせ、家具や道具というよりも、1つの“作品”として興味深い。
ミラノ・サローネ特集、続きはこちら
ミラノ・サローネ特集 第1回「木とデザイン」
ミラノ・サローネ特集 第2回「イタリアデザインの未来」
ミラノ・サローネ特集 第3回「キッチンの可能性」
ミラノ・サローネ特集 第4回「イタリアン・キッチン」
ミラノ・サローネ特集 第5回「サローネ・サテリテ・アワード」
ミラノ・サローネ特集 第6回「サローネ・サテリテの注目作品」