Renovation

祖父母の家を孫がリノベーション愛着のある家を
次の世代に引き継ぐ

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開かずの間がお洒落なダイニングへと変身

祖父母が住んでいた江戸川区の古民家をリノベーション。

「昭和35年に建てられた家です。壁は剥がれ落ち、雨漏りもありましたし、沈下で傾いてました。祖父母が亡くなった後、夫婦で住んでいたのですが、冬はいたるところで隙間風が吹き、とても寒い家でした。取り壊して新築することを検討する一方で、祖父母の思い出がたくさん刻まれた愛着のある家をなんとか残すことはできないだろうかと、古民家のリノベーションを数多く手がけていらっしゃる建築家の宮田一彦さんに相談しました」と大越威徳さん。

木造の家は基本的にどんな家でも再生は可能なのだそう。ただ、傷みが大きい家を修復していくのには費用もかかるとのこと。検討の末、リノベーションに踏み切った大越さん夫妻。
壁、床、天井をすべて剥がし、外壁も改修。重い瓦を降ろし、断熱材をきちんと入れ、窓には障子を入れて断熱効果を上げた。

「祖母が始めた縫製業を受け継ぎ、僕は3代目になります。今は工場が別にありますが、祖父母の代はこの家の1階の北側の作業場で縫製していました。作業場は断熱材を入れていなかったため、特に寒さ暑さが厳しく、開かずの間になっていました(笑)。そこもリノベーション後はこうしてダイニングキッチンとして使える場所になりました」


リノベ前は開かずの間だったとは思えない、素敵なダイニングキッチンに生まれ変わった。
リノベ前は開かずの間だったとは思えない、素敵なダイニングキッチンに生まれ変わった。
「2階にあった仏壇と神棚を1階に移動しました。住職に相談しながら、コンパクトなサイズに作り直しました」
「2階にあった仏壇と神棚を1階に移動しました。住職に相談しながら、コンパクトなサイズに作り直しました」

婦人服縫製工場の三代目、大越威徳さんと、ひろみさん夫妻。祖父母が亡くなった後、この家を引き継いだのだそう。
婦人服縫製工場の三代目、大越威徳さんと、ひろみさん夫妻。祖父母が亡くなった後、この家を引き継いだのだそう。

足を使って建具を吟味

階段や手摺りといった、思い出に残るものはなるべくそのまま残し、建具はアンティークのものを新たに苦労して探したのだとか。

「古い建具はネットで通販もできますが、やはり現物を実際に見ないと状態や質感はわかりません。建具探しのために鎌倉や埼玉の建具を扱う店に何度も足を運びました。探してきた建具は、職人さんに丁寧に寸法を合わせて入れていただきました」

インダストリアルなヴィンテージのフランスの照明器具や、ジョージ・ネルソンのバブルランプ、ジェルデライト、イルマリ・タピオヴァーラのダイニングテーブル、トリックスのAチェアやBチェアなど、古民家に似合うものをじっくりと探すとともに、イデーのラタンチェアをはじめとする、以前から使っていた家具をコーディネイト。リビングのハンモックは、TOOL BOXで見つけたものだそう。
キッチンは料理をしながら室内を見渡すことができるアイランド型に。ガスコンロは、パトリス・ジュリアンの+doを選択。

「キッチンのタイルや、大谷石や和紙を使った壁、ヴィンテージの家具の選び方など、宮田さんのデザインや世界観を信頼しながら、自分たちが持っている家具などを加えていきました」


2階に上る階段は古いものをそのまま残した。階段がリビングとダイニングをゆるやかに分けている。
2階に上る階段は古いものをそのまま残した。階段がリビングとダイニングをゆるやかに分けている。
アイランドキッチンの美しいタイルの色は、大越夫妻がこだわって選んだ色なのだそう。
アイランドキッチンの美しいタイルの色は、大越夫妻がこだわって選んだ色なのだそう。
古家具と大谷石とスモークツリーが美しい。「花はこの家に越してからよく飾るようになりました」とひろみさん。
古家具と大谷石とスモークツリーが美しい。「花はこの家に越してからよく飾るようになりました」とひろみさん。
ダイニングテーブルの上には武骨なインダストリアルデザインのライトが2灯、70年代のフランスPhilips社製。
ダイニングテーブルの上には武骨なインダストリアルデザインのライトが2灯、70年代のフランスPhilips社製。
透かしガラスがキュートなキッチンの横に作ったパントリーの扉。大越宅にはたくさんの古い建具が使われている。
透かしガラスがキュートなキッチンの横に作ったパントリーの扉。大越宅にはたくさんの古い建具が使われている。


センスよく食器が飾られた棚。古い図書カードを入れる引き出しに台所の細々としたものを収納している。
センスよく食器が飾られた棚。古い図書カードを入れる引き出しに台所の細々としたものを収納している。

イデーのラタンの座椅子の上の、ディズニーとコム・デ・ギャルソンのコラボクッションは、友人からのプレゼントだそう。
イデーのラタンの座椅子の上の、ディズニーとコム・デ・ギャルソンのコラボクッションは、友人からのプレゼントだそう。

念願の薪ストーブで火を囲む団らんのひととき

広々とした玄関の土間には、大谷石の壁の前に念願の薪ストーブを設置。

「薪ストーブの暖房効率がどれくらいのものなのか想像できませんでしたが、実際に使ってみるととても暖かかったですし、火を囲んで自然と家族が集まります。近くに専門店があるので、薪の入手も比較的簡単にできます。家の外に薪置き場も作りました。薪ストーブは作ってよかったもののひとつです」

薪ストーブの前のロッキングチェアは、親子で座れるACTUSのオリジナル。カリモクチェアのソファと、ハグみじゅうたんのラグを敷いて。


土間に念願の薪ストーブを設置。冬は自然と家族が火の周りに集まるのだそう。「子どもも火に慣れてきたようです」
土間に念願の薪ストーブを設置。冬は自然と家族が火の周りに集まるのだそう。「子どもも火に慣れてきたようです」
玄関の下駄箱の上に招き猫。鍵をかけておくフックや、クルマのキーを置くトレイがバランスよく。
玄関の下駄箱の上に招き猫。鍵をかけておくフックや、クルマのキーを置くトレイがバランスよく。
大谷石、漆喰、木の壁のバランスが絶妙。庭に面した障子は、下半分から庭が見える猫間障子。
大谷石、漆喰、木の壁のバランスが絶妙。庭に面した障子は、下半分から庭が見える猫間障子。
フランスのジェルデライトを壁付けにして、洗面の照明器具にしている。洗面台はタイル貼りに。鏡の上に明り取りの窓を新設。
フランスのジェルデライトを壁付けにして、洗面の照明器具にしている。洗面台はタイル貼りに。鏡の上に明り取りの窓を新設。
家族で使うタオルは色目を統一。無印良品のカゴバスケットに、肌着や下着を収納。
家族で使うタオルは色目を統一。無印良品のカゴバスケットに、肌着や下着を収納。


洗面所のドアの格子と、勝手口に通じる板を横に張った壁とフローリングの木の表情が豊か。
洗面所のドアの格子と、勝手口に通じる板を横に張った壁とフローリングの木の表情が豊か。
ハーフユニットバスは、キッチンカウンターと同じタイルを貼り、さらにヒノキを使って香りの良さも満喫。
ハーフユニットバスは、キッチンカウンターと同じタイルを貼り、さらにヒノキを使って香りの良さも満喫。


4代目に家の思い出を

「庭が見えるリビングは和室にすることも考えましたが、結果的にはフローリングにしました。もしどうしても和室が欲しかったら、置き畳を使えばいいかなと」

濡れ縁の先の庭には、威徳さんのお父様が作った鯉が泳ぐ池がある。
「庭はもう少し手を入れたいと思っています。どこをどうしようか、あれこれ考えながら眺める庭も楽しいです」

月乃ちゃんの成長に合わせて、2階の寝室にベッドを入れたり、子ども部屋を整える計画もあるのだそう。
“子どもに家の思い出を作ってあげたい”と話す大越夫妻。
3代目がリノベーションした家で、4代目がすくすくと成長している。


2階の手摺は古いものをそのまま使っている。右側のドアが子ども部屋。左側の窓の外には月見台を設けた。
2階の手摺は古いものをそのまま使っている。右側のドアが子ども部屋。左側の窓の外には月見台を設けた。
突き当りが2階のトイレ。小さな手洗い場が昭和の風情。左側の建具の向こうが寝室。
突き当りが2階のトイレ。小さな手洗い場が昭和の風情。左側の建具の向こうが寝室。
5歳の月乃ちゃんの勉強机は作り付けに。PCで熱心にユーチューブを視聴中。
5歳の月乃ちゃんの勉強机は作り付けに。PCで熱心にユーチューブを視聴中。
緑豊かな遊歩道沿いの大越邸。庭の枝垂れ桜は30年前に植えたものだそう。
緑豊かな遊歩道沿いの大越邸。庭の枝垂れ桜は30年前に植えたものだそう。

大きな鯉が泳ぐ池は威徳さんのお父様の手作り。風が程よく抜ける木の塀はリノベーションの際に新設した。
大きな鯉が泳ぐ池は威徳さんのお父様の手作り。風が程よく抜ける木の塀はリノベーションの際に新設した。

大越邸
宮田一彦(宮田一彦アトリエ
所在地 東京都江戸川区
構造 木造
規模 地上2階
延床面積 108m2