Style of Life
四季の移ろいを間近で感じる 自然と一体化した住まいで
生き生きと暮らす
雑木林に囲まれた古い洋館に惹かれて
手になじみ、愛着のわく生活雑貨を扱う店『日用美』を営む浅川あやさん。10年ほど暮らした鎌倉を離れ、海と山に囲まれた自然豊かな小さな町、神奈川県二宮町に越してきた。
「ジャングルみたいに木々が繁った380坪の広い敷地に、築80年以上の日本家屋と洋館が荒れ果てた状態で残されていました。その古い洋館に一目惚れしたんです。お店のイメージが次々に沸いてきて。私たちに作り直してもらうのを待っていたような、ここに呼ばれたような気がしましたね」と、運命的な出会いを感じたあやさん。
夫の真さんも、「窓のステンドグラスや古いパーツなどディテールにガツンとやられましてね。いまでは技術的に作れないものや貴重な素材もあったため、これは再生しなくてはいけないという使命感が沸きました」と話す。
洋館はお店のスペースとして残し、日本家屋は取り壊して、住居部分を新築することに。
「家を建てるために、どうしても伐採しなければならなかった大きなカツラの木があったんです。ずっとここで生きてきた木を処分する気になれず、知り合いの木工作家さんたちに頼んで、作品の素材として活用してもらいました」(あやさん)。
基本設計は、一級建築士の資格を持つ真さんと、大学でインテリアを学び内装設計の経験もあるあやさんが担当。自分たちの思い描く暮らしを現実のものにするために、できる限り自分たちが参加する家づくりを行った。
戸外のような開放感
浅川さん夫妻にとって家づくりは、鎌倉の家に続いて2回目。「今回は鎌倉の住宅街ではできなかったことにチャレンジした」という。あやさんのご両親も加わり、ご夫妻と息子の楽(がく)くん(10歳)の5人での暮らしのスタートでもあった。
コンセプトは、「外にいるように暮らす」。内と外の境界が曖昧な家を目指した。
1階はキッチン、リビング、ダイニングをワンフロアにし、テラスまでフラットにつなげた。また、屋根の形そのままの勾配天井がのぞく大胆な吹き抜けにより、縦横に伸びた大空間を実現。テラス側は大きな1枚ガラスの掃き出し窓にし、竹林に向かって開き、自然と真正面から向き合う造りにした。
また、浅川さん夫妻は、子どもたちが内と外で自由に遊べ、家の中が汚れることを気にしない、大らかな暮らしを理想としている。そして、時を経ても味が出る自然素材にもこだわった。
外観は機能性と美しさを併せ持つ焼杉を採用。1階の床材は、国産杉の30mm厚を使用し、柔らかで傷がつきやすいが、足ざわりの良さを優先した。壁はあえて白塗装に。汚れても、自分たちで簡単に塗装し直せるようにと考えてのことだ。
真さんが熱望したのが、壁一面の本棚に包まれた趣味のスペース。
「本と音楽を楽しむ趣味のための開放的なスペースが欲しかったのです。キッズ用ソファに座って楽器を弾いたり、外を眺めたりするのが心地よいです。大きな窓から星もきれいに見えるんですよ」(真さん)。
自ら図面を描いたフルオーダーキッチン
あやさんが1日の多くの時間を過ごし、最もお気に入りの場所というのがキッチン。使いやすいように自ら図面を描き、フルオーダーした。ご両親や真さんも料理をするため、スペースには余裕を持たせた。また、電化製品のコードを隠すために、設置場所をあらかじめ考え、コンセントの位置にこだわった。
「器は仕舞い込むと使わなくなるので、食器棚は扉をつけずにオープンにし、見せる収納を楽しんでいます」。
使用頻度の高いものは取りやすい下部に置き、観賞用は上部に並べた。よく使うキッチンツールは、さっと取り出せるように壁に掛けたり、マグネットで吊るしたり。
「キッチンで使っているものは店で扱っている作家さんのものが中心です。実際に使うことで、経年による変化や使い方など具体的に説明することもできます」。
浅川邸には、楽くんの友達が、学校帰りに毎日のように立ち寄るそう。
「いつも10人くらい家に居ますね。普通に“ただいま”って入ってきます。息子がいなくてもいますよ(笑)。ギターを触ったり、ハンモックを取り合ったり、薪割りをしてくれる子もいて。キッチンは全体が見えるので、私は司令塔のように立っています(笑)」(あやさん)。
自然と共存した暮らし
「鎌倉を離れたのは、畑が作れる広い庭が欲しかったからです。息子が通っていた保育園を運営している“ごかんたいそう”の考えが影響しています。パーマカルチャーを実践していて、息子の送り迎えをしているうちに、そのような自然と共存した生活ができるといいなと思うようになったのです」(あやさん)
パーマカルチャーとは、パーマネント(永久な)、アグリカルチャ-(農業)、そしてカルチャー(文化)を組み合わせた造語。人と自然が共に豊かになるような関係を築いていくためのデザイン手法である。最近よく耳にするサスティナブル(持続可能な)につながるライフスタイルで、浅川家ではできることから取り組んでいる。
庭には、雨水タンクや簡易コンポストを設置。庭の水やりには雨水タンクにためた水を使用し、生ゴミはコンポストに入れて土にかえしている。
「庭の竹林を整備し、少しずつ畑を作り始めています。ブドウ棚を作ったり、果樹も植えたいですね」とあやさん。
土地の購入から、道路やインフラの整備も含めて2年の年月を経て、昨年春に完成した浅川邸。鳥の声が絶え間なく聞こえ、木々に囲まれた生命力あふれる土地で、自然と共存したのびやかな暮らしを楽しんでいかれることだろう。