Architecture
大きな家具のような小さな家梁の上も
素敵にディスプレイ
こう話すのは、寺戸夫妻。建築の構造設計者と、ファッションブランドのマーチャンダイザーのご夫婦だ。
壁がない
「普通の家じゃないもの」――確かに、寺戸家は「普通の家」とはとても異なる特徴あるつくりになっている。まず、部屋と部屋を仕切る壁がない。部屋を分けているのはそれぞれの部屋を絵のようにして縁どるフレームのみ。
「最初の打ち合わせの時に、壁があるのが嫌なんだよねって話をしたんです」と奥さん。「実家もそうだったんですが、ぜんぶ仕切られていてつながりを感じられないのが子供の頃から嫌で、空間がつながらないと人と人もつながらない。そんなようなことを小学生ながらに思っていた」
狭さを解消するための工夫は他にも。平面は限られた面積を有効活用するために単純に4分割されているが、計画当初は真ん中に階段室があった。しかし、そうすると残された空間がすごく狭くなってしまうので、この階段室を取っ払ってしまったのだ。そして、純粋に平面を4分割した時にできるスペースがどうつながっていくかを建築家とスタディしていったのだという。
梁の上もディスプレイ
この家の構造設計はもちろん寺戸さん自身で担当し、高さ方向の位置も含めて床を自由に配置できる構造システムを採用した。これによって、各部屋を絵のようにして縁どるフレームが組まれることに。すると、建築家から「こういうところにいろんなものが置けますね」と。「こういうところ」とは、フレームから水平方向に出っ張った梁部分のことだ。
奥さんは、今、あるファッションブランドを統括する立場にあるが、「売り場に入ってディスプレイとかもするので、家でもやっぱり飾りたくなって、うずうずしてしまう」という。建築家の提案は、この奥さんのキャラクターを考えてのものでもあったようだ。
「15,6年の間、今の仕事をしているのでやっぱり培ってきたものってあると思うんですね。勤め初めの頃だったらこういう風にはできなかったと思いますね」
新たな空間体験の場
篠崎さんはデザインを手掛けたこの寺戸邸を「大きな家具のような小さな住宅」と評したという。家を収納家具に見立てると、棚に相当する床が自由に配置できる上、それぞれの棚=床に置かれたモノたちも普通の家と比べ入れ替えも容易だ。そんなことを指しての発言かと思ったら、収納されているのはモノではなく「生活そのもの」なのだという。収納棚的な空間イメージと生活の器である家を重ね合わせての評言なのだろう。
この「家具のような家」は、収納だけでなく、もちろん新しい空間体験の場でもある――奥さんはリビングで愛犬のベスと遊ぶのが大好きで、夜などはそうして過ごすことが多いが、寺戸さんは、ダイニングで彼らの姿を見ながらくつろぐ時間帯をとても大事にしているという。
リビングまで上がらずとも、人だけでなく、犬とのつながりもしっかりと感じ取ることができる。これはまさしく「普通の家」では体験のできない、寺戸邸ならではのものだろう。
設計 篠崎弘之建築設計事務所
所在地 東京都
構造 木造
規模 地上2階
延床面積 75.62m2