Hobby
ピアノとともに暮らす注ぎ込む光と通り抜ける風
木の温もりに包まれる心地よさ
変則的な敷地に一目惚れ
練馬区の閑静な住宅街に、4年半前に家を建てたKさん夫妻。「運命的」とお2人が話すのは、江古田駅前で一級建築士事務所を開く宇野健一さんとの出会い。「もともと住んでいた江古田近辺で土地を探していました。10カ月を過ぎても気に入る物件に出会えず、行き詰まっていたところに、たまたま雑誌で宇野さんが手掛けた住宅を見つけたのです。自然素材の活用や環境への配慮など宇野さんの考え方にとても共感しましてね。この方に家づくりをお願いしたいと思ったら、宇野さんの事務所がすぐ近くで驚きました」と、当時を思い出して笑う奥さま。
その後、宇野さんに紹介された不動産屋のもとで、わずか2か月足らずでこの土地に出会う。
「一目惚れでした」とご夫妻が口を揃えるその敷地は、袋小路の突き当りに位置し、共有スペースを除くと、台形状の変則的なもの。Kさん夫妻にとっては、それがかえって魅力的だったという。「奥まっているため車の往来も少なく、静かで解放的な環境が気に入りました。それに、四角四面の家では面白くないですから」とご主人。どのような家になるのか、期待はさらにふくらんだようだ。
リビングから見えるピアノ室
「ご夫妻の要望は明快でした」とは宇野さん。ピアノが趣味のお2人のリクエストは、グランドピアノが置けることと、そのピアノを常にリビングから見ることができるよう視覚的に連続性をもたせることだった。実は、ご夫妻ともにアマチュアを対象としたコンクールでの優勝経験をもち、コンクール仲間で毎年ジョイントコンサートを開催するほどの腕前である。「どんなに忙しくても、5分でもよいから毎日ピアノに触れるようにしています。夜遅く帰宅しても、近隣に迷惑をかけずに練習ができる、防音設備を備えたピアノ室が欲しかったのです」とご主人。
壁は2重構造にし、天井や床にも防音処置を施した。リビングとつながるためのガラス張りの引き戸は厚みの異なるガラスを2枚重ね、音の吸収を考慮。さらに、音の反響を考え、リビングより床を下げて部屋の容積を広めに確保した。「三角形の敷地の形状に沿って、三角形のグランドピアノがちょうどおさまりました」と嬉しそうに話す宇野さん。壁面が並行ではないことが、音響性能を高めることにもつながっているという。
「疲れていたり、嫌なことがあったりしたときこそピアノを弾き、没頭することで気持ちを切り替えられますね」と話すご主人。医師という職業柄、ストレスがかかることも多いことだろう。その発散としても、ピアノの存在は大きいようだ。
自然素材が織り成す心地良さ
宇野さんが手掛ける住宅は、自然素材をふんだんに使用している。それは、Kさん夫妻が宇野さんに依頼した理由のひとつでもある。
K邸の天井は杉板を採用した。フローリングはナラ材、珪藻土の壁、天然の紙を使用したルナファーザーの壁紙など、自然素材のぬくもりや木の香りが心地良く、まるでリゾートホテルのような贅沢な空間になっている。
フローリングの塗装はKさん夫妻が挑戦した。1階と2階の広範囲に渡って行ったという。「腱鞘炎になりそうなくらい大変でしたが(笑)、自分たちの家を隅から隅までじっくり見て触れるという良い機会になりました」(奥さま)
木部の塗装の色は、余った材料に調合した色を実際に塗装してもらいながら決めていったそう。落ち着いた色調は、奥さまが憧れるフィンランドの建築家、アルヴァ・アアルトの自邸を意識した。あたたかみのある落ち着く住まいに導いている。
さまざまな表情を見せる空間
「湿気を感じず、風もよく通るので、夏場でもエアコンは最低限しか使用しません」と奥さま。全方向に設けたスリット窓などの効果で、風がさわやかに通り抜け、優しい光をも引き込んでいる。
また、ダイニング上部の吹き抜けにより、1階と2階がつながり、家全体が一体の空間に。「東西南北すべてから光が入るので、1日の変化や天候の変化を敏感に感じとることができます。揺らぐ枝葉から差し込む西日が素敵なんですよ」と目を細める奥さま。
住み始めて4年半、「全く飽きず、いつも新鮮です」とはご主人。変則的な敷地に沿った不整形な部屋や屋根の形状、床の高さが異なる空間の変化に加え、自然光や風、グリーンを取り入れることで、見る角度や場所によってさまざまな表情を見せてくれるからという。
休日は、ピアノ仲間がよく集うそう。料理好きの奥さまのおもてなし料理に、ご主人が漬けた梅酒やワインがかなり進むよう。さらに、ご主人はコーヒーにもこだわりがあり、奥さまは茶道の経験から器や植物への造詣も深い。ピアノ以外にも多彩な趣味をもつKさん夫妻。自然素材の温もりを感じる、変化に富んだ住まいでは、何気なくも豊かな時間が流れていた。