Design
ミラノ・サローネ特集2013 – 3 –テーマパビリオンで展開された
エコで斬新な”光”のアイディア
SLAMP スランプ
空間の主役を張る
一点集中主義
デザイン大国イタリアを体現するような「スランプ」社。カリスマCEOロベルト・ズィラーニが率いる同社の1992年創立以来のスタイルは「夢と情熱に支えられた未来を目指す若者集団が偉大なるマエストロとの対話を繰り広げるアトリエ」。しかも、“光の速さ”で時代を行くのだという。2002年にナイジェル・コーツをアートディレクターに迎え、そのスピードはさらに加速している。同社の強みは、デザインを実現化する技術と特殊素材の開発力にある。名だたるデザイナーのほとんど実現不可能ではないかと思われるようなアイディアを現実の形にしてしまうのだ。デザイン大国を担う代表的企業の一つである。
Album アルブム
顧客の私的な好みを
最優先するイタリア式
ミラノの北、モンツァ郊外に本社を構える「アルブム」が、創業以来25年間に渡って貫いてきたフィロソフィーは「必要なところだけに光を」。顧客のあらゆる好みと必要に応じるためラインナップは幅広く、ペンダント、天井及び壁埋め込み型、卓上、鏡など目に見えるモデルはもちろんのこと、独自の配電システムも開発し、ありとあらゆる場所に照明を設置できることがセールスポイントだ。室内だけでなく屋外照明も手がけ、またもちろん、LEDの分野にも積極的に取り組んでいる。
Anglepoise アングルポイズ
元祖は頑にスタイルを守る
オーセンティックの本懐
デスクトップライトのクラシック、英国の「アングルポイズ」。1935年に発表された「1227」は、スプリングにより自在にアームを動かせるという画期的な仕組みによって、タスクライトとして机上での作業効率を格段に向上させた。以来、改良を重ねつつもオリジナルの姿を損なうことなく、デスクのみならずフロア、トップ、ウォールにラインナップを広げている。伝統を感じさせるスタイルはさまざまなシーンで独特の世界を繰り広げる。通常モデルの3倍の大きさである「Giant」は空間を圧倒する存在感でインテリアの要となり、また、ウォール据え付けの小型タイプはエレガントで落ち着いた雰囲気を醸し、ペンダントであればあえてポップな色を選んで明るいダイニングを演出する。オーセンティックだからこそ遊びが楽しめるのだ。
Atelier Alain Ellouz アトリエ・アラン・エルーズ
天然石を自在に操る
幻想的な光の世界へ
天然の鉱石アラバスターはその乳白の輝きと光を透過させる性質から古来、神聖なものとして宗教建築や美術品の素材として用いられてきたし、アラバスターを使ったランプシェードは中世の富裕層の屋敷でしばしば見かけられるものだった。「アトリエ・アラン・エルーズ」はこのアラバスターとロッククリスタルを専門にデザイン加工するフランスのメーカー。アラバスターは加工しやすいが脆い質なので、同社では成型後に独自の工程をほどこして強度を上げている。テーブル、カウンター、椅子、シンク、ウォール、フロアタイルまでおよそ室内のありとあらゆる部分をアラバスターやロッククリスタル仕立てにすることができるという。一般住宅ではなかなか難しい素材だが、シンプルな球体やキューブ型のライトは一つあると空間の印象を変えてくれるだろう。
BeWare ビーウェア
逆もまた真なり
製菓器具メーカーの挑戦
「BeWare Light Concept」は2012年9月にヴェネツィアで旗揚げしたばかりの新ブランド。母体はシリコン樹脂製の製菓器具を主に製造するメーカー。「シリコン樹脂製の製菓用の型をひっくり返してみたらランプシェードに見えた」のが発端で、考えてみたら可塑性、耐熱性に優れ、手入れも簡単で洗浄も可能、つまり照明器具に適しているというわけで、研究開発を重ね、この度、7モデルを持ってサローネに臨んだのである。こなれた価格も魅力で、1個80ユーロ弱。複数個を単色で、あるいはカラフルに使ってみるのもいいだろう。
Bocci ボッチ
自然な柔らかさを醸す
アンティーク的光
2005年にカナダのバンクーバーに設立された「ボッチ」社は、本社内にガラス工房を持ち、デザイナー始め全社員が工房とダイレクトなつながりを持つというユニークな企業構造を持つ。ガラス以外の素材についても全て地元で調達するという地域密着型だが、そのデザインの独自性と素材を生かすアレンジ力とで短期間に世界的な成功をなし得た。吹きガラスは、最も原始的なガラスの製法の一つだが、形状や気泡など、2つと同じものがないところが魅力。不均一な厚みも光を通すとゆらぎを生み、独特の温かみをもたらす。同社の製品はこうした吹きガラスの特性を生かした、アンティークのような柔らかい光を発する点が多くの人の共感を呼んでいる。
Catellani&Smith カテッラーニ&スミス
極めて人工的に作り出す
有機的な光と陰の世界
光があれば陰があり、自然があれば人工がある。二つのものの間の絶妙なバランスを探求するのが、「カテッラーニ&スミス」社の信条だ。ミラノ近郊のベルガモに1989年に設立以来、エンツォ・カテッラーニ率いる同社は、照明という分野におけるアートの世界をクリエイトし続けている。緑豊かな田園地帯で、古い水車小屋にオフィスを構え、近隣の工場では川のせせらぎが聞こえ壁を覆うジャスミンの香りに包まれているという。そんな環境で、職人による手仕事をもって自然から得たインスピレーションを形にすれば、夜空を思わせる製品が生まれるのも至って道理だ。エコロジカルであることを大前提として、2013年発表の新作は全てLED仕様である。
Foscarini フォスカリーニ
照明界に息づく
ヴェネツィア的現実派
一千年もの間、海洋共和国として小国ながらその存在感をヨーロッパの歴史の中に刻み込んできたヴェネツィア。その偉業はヴェネツィア人の現実を見つめ冷静に判断し、商機を逃さないという性質に負うところ大だと言われる。「フォスカリーニ」社はまさにそのヴェネツィア気質によって現代の照明業界で堂々の一角を占める企業である。1981年にヴェネツィアのガラス産業本拠ムラーノ島に旗揚げし、さまざまな世界的デザイナーとコラボレーションした製品を世に送り続け、イタリアのプロダクトデザイン最高の賞コンパッソ・ドーロ賞も獲得している。2013年サローネでも内外の若手並びに有名デザイナーを起用した9つの新作のほか、2009年より提携関係にあるジーンズメーカー「Diesel」ブランドの新作も発表した。
FrauMaier フラウマイヤー
ドイツの家庭に似合う
クリーンな色彩とライン
犬や猫が駅長だったり、社員だったり、というのは日本でもないわけではないが、「フラウマイヤー」社のボスはビーグル犬のマイヤー嬢。南ドイツのエスリンゲンに創業してまだ8年という若い会社だが、マイヤー嬢をトップに掲げることからもわかるように、親しみやすく使いやすい、そしてリーズナブルな価格の製品を提供し、ドイツ・北欧を中心にヨーロッパ各地、そしてオーストラリアにも販路を拡大するなど、順調に伸びている企業だ。シンプルだが特徴的なデザインは一度見たら忘れられない。サローネ会場ではマイヤー嬢もちゃんとブースで“接客”に勤しんでいた。いろんな意味で独自の路線を行くメーカーである。
LASVIT ラスヴィト
ボヘミアガラスの
新しい光と形
ヨーロッパ中世において、ガラス器の製造は長くヴェネツィアによって独占され、ごく一部の富裕層にだけ許される贅沢品だった。ところが、近代になり、ボヘミア(現チェコ)の安価なガラス製品が市場を席巻、ヴェネツィア共和国はすでに没落久しかったが、ガラス産業は滅亡寸前まで追い込まれたのである。以来、ボヘミアガラスといえば、手頃な価格のそこそこ綺麗なガラス器の代名詞となった。2007年にプラハに設立した「ラスヴィト」社はしかし、そんな従来のボヘミアガラスのイメージにとどまらず、有名デザイナーやチェコのデザイナーを起用したアーティスティックな世界に挑戦するメーカーである。今年のサローネでは会場内のブースでも、会場外のトルトーナ地区でも大掛かりなインスタレーションを展示。ボヘミアガラスの新たな一面を存分に披露していた。
Liat Poysner Kantor リア・ポイスナー・カントー
無機質なマテリアルの
無限の可能性
サローネ会場内の小さなブースはひっそりとしていた。人がいないわけではなく、誰もが小さな声で会話をしていた。展示されているのはメタリックなオブジェのような照明。どれもさほど大きくはなく、住宅やオフィスで使われることを想定したサイズ。しかし、その近寄り難い雰囲気は、多くの人に受け入れられるものではないことを物語っている。イスラエルで活躍する照明デザイナー自らの名を冠した「リア・ポイスナー・カントー」は、デザイナーの個性を静かに、しかし強烈に表現するブランドだ。扱う素材は金属のみ。無機質なマテリアルなのにどこか有機的な動きや不安定さを漂わせ、それでいて落ち着きを醸し出す、不思議な照明である。
Lithos Design リトス・デザイン
光が映し出す
大理石の神秘
大理石は本来、光をあまり通さない鉱物である。しかし、大理石のなかでも幾つかの種類は光を通す性質がある。その特殊な大理石を使って透過光壁面をプロデュースするのが「リトス・デザイン」社だ。イタリアのヴェネト州ヴィチェンツァ郊外の山間で石材加工業を営んできたベヴィラックア家は、父の跡を継いだクラウディオとアルベルト兄弟の代となって、新たなプロジェクトを発表するブランドとして2007年に同社を立ち上げた。大理石を始めとする天然石の無垢のみを扱い、床や壁の装飾を手がけている。ミケランジェロは大理石の塊から「ここから出してほしいと叫んでいるものを彫り出す」と言ったが、同社も石の声を聞き、石が最もふさわしい形になるように仕立てることを信条とする。今年のサローネでは、“石のプロ”としての経験と技術を注ぎ込んだ件の「ピエトレ・ルミノーゼ」シリーズを発表。現段階では8パターンのみの展開だが、徐々にバリエーションを増やしていくという。
Petite Friture プティ・フリトゥール
パリの暮らしを彩る
エスプリの利いた照明
「プティ・フリトゥール」、小さな揚げ物などという名前からして、自由気ままそうなメーカーだと想像がつく。フランスで2009年に誕生したマニュファクチャーをベースとするデザインプロダクツの企業だ。扱うのはさまざまな生活シーンにちょっとした楽しみや個性をプラスするアイテム。照明、テーブル、椅子、鏡、テーブルウエアから小物の類いまでさまざま。いわゆる雑貨の範疇に当てはまるが、どれもあまり子供っぽくはなく、いかにもフランスらしいエスプリを感じさせるデザイン。時代の最先端を目指してしのぎを削るメーカーが集うサローネで、アットホームでマイペースな雰囲気を醸し、逆に印象深かった。
Terzani テルツァーニ
照明の域を超え
オブジェと化す
1972年イタリア、フィレンツェに創業した「テルツァーニ」社は、メタル素材やガラスを用いたデザイン照明のメーカー。特にシルバーカラーのドラマチックでエレガントなデザインで、ホテルやレストランなどを豪奢に演出することを得意とする。空間を光で照らすというよりも、光を使ったオブジェで場の雰囲気をコーディネートするといったほうがいいだろう。ナイジェル・コーツやマウリツィオ・ガランテといった大御所デザイナーとのコラボレーションにも積極的だ。
VIBIA ビビア
スペイン式リニアな
美しさを追求する
原始より光は人間の憧れだった。太陽は万物を育て、闇夜の月明かりは不安を取り除いた。そんな憧れの光を自在に操り、美しく見せることが、「ビビア」社のモットーだ。スペイン・バルセロナに1987年に創業した同社はスペインのデザイナーを始め、世界で活躍するデザイナーとともにシンプルで美的な照明の製作に勤しんでいる。デコラティブとは無縁な、リニアなラインが特徴的で、今年はNendoによるリネン製の「NUNO」、壁面に差し込む小片の傾きを変化させて光と陰の動きをアレンジする「SET」(Josep Lluis Xuciaデザイン)、ワイヤーと電球のみのシンプルな組み合わせに幾何学的な造形を与えるArik Levyの「Wireflow」等を発表した。
VITA ヴィータ
たためる照明の
“フェザー”級に注目
デザインというものは見た目だけでなく、機能性や利便性などさまざまな側面を持つ。全てにおいてバランスよく及第点をとるデザインとなると、イタリアなどはあまり得意ではなく、北欧にトップの座を譲らざるを得ないだろう。デンマーク・コペンハーゲンで2008年に創業した「ヴィータ」社は、北欧らしいモダンデザインのシェードをフラットなパッケージに納めた製品でその認知度を高めた。50ユーロを切る価格帯の製品もあり、一般家庭から商業施設まで幅広いクライアントを獲得している。
Artemide アルテミデ
人に寄り添う照明
イタリア的考え方
中世のイタリアの僧が、宗教改革以前のドイツの教会でのミサを見て、「誰もおしゃべりをしているものがいない」と感動したという。つまり、イタリアのミサではその時代すでに私語が絶えなかったということ。このエピソードにはいろんな解釈があるだろうが、穿って言えば、たとえ神様の前であっても現世に生きる自分という人間が前面に出てしまう、それがイタリア人であるということを示しているようにも思う。1960年にエルネスト・ジスモンディによって設立されたミラノ近郊の照明メーカー「アルテミデ」は名実共にイタリアを代表する企業の一つである。同社の哲学は、The Human Light、人とともに、人のためにある照明、である。イノヴェーションは人のより良い暮らしのためにあり、イノヴェーションのためのイノヴェーションであってはならない(ましてや神のためでもない)ということを実践し、業界をリードしてきた。そのアルテミデ社は今年のサローネで、ジスモンディ率いる同社のデザイナー陣、並びに、ジャン・ヌーヴェルなどトップデザイナー・建築家による同社の哲学に基づいた新作を発表。すべてLED仕様である。その多くは近未来的な突拍子もないデザインに見えるのだが、よくよく見れば、そして機能を理解すれば、なるほどと思うものばかり。中世の昔から脈々と受け継がれてきた、“人間ありき”の発想をとことん追求する姿勢、これはイタリア人のDNAのなせる業かもしれない。
ミラノ・サローネ特集、続きはこちら
ミラノ・サローネ特集 第1回「椅子」
ミラノ・サローネ特集 第2回「トピックス」
ミラノ・サローネ特集 第3回「照明」
ミラノ・サローネ特集 第4回「注目の若手デザイナー」