Style of Life
子供と楽しむ海辺の生活シンプルな白い箱に、
こだわりとアイデアを凝縮
“格好つけない”2軒目の家
「鎌倉に家を建てよう」と思ったのは、子供が生まれたことがきっかけだった。「サーフィンをやっているので、もともと鎌倉にはよく来ていたんです。海も山も近くにある、自然に恵まれたところで子供を育てたいね、と妻と話し合って決めました」
それまでは東京駅が見える一戸建てに住んでいたという坪井さんは、住宅の内装デザインやプロダクトデザインを行うデザイナーであり、現在は自宅の一階に自らデザインした商品や、各国から集めた商品を販売するセレクトショップ「Losango」も経営する。前の家も今の家も自分でイメージし、プランを立てて建築した。
「以前は鳥かごみたいな構造で、屋上にお風呂を造ったり、床を全部モルタルにしたりと格好つけた造りでした。今回はそれとは全く違って、力の抜けた家にしたかったんです。デザインっぽくするのではなく、なるべくシンプルに、箱のような家を目指しました」
自らプランニング
吹き抜けがあったり、段差があったりといった凝った造りは一切ない。2階にベッドルームとバスルーム、3階にリビングダイニングと構成はいたってベーシック。しかし細かいところにこだわりが見て取れる。「柱が出ないようにというのは特にこだわりました。木造3階建てで柱がないと不安だという人もいますが、そこはしっかり構造計算しました」
壁は漆喰、階段やバスルームには全て細かな白いタイルが敷き詰められている。階段を登って2階に上がると、正面には入り口の狭いシューズインクローゼットが。これも坪井さんのアイデアで、靴を見えないようにしておくため、あえて入り口を狭くしたという。中に入ると、家族の靴のコレクションがずらりと並ぶ。
「ベッドルームは寝るためだけの部屋なので小さくていいかなと思い、“ドラエモンの寝室”を目指しました」。2階は1階、3階と比べて天井が低く、小さな個室で区切られている。「逆に3階は天井を高くして広々とさせました。普段はリビングや屋上にみんなが集まれるようにしたいと思ったんです」
洗面とつながったバスルームは、ドアがなくアーチ型の狭い入り口をくぐったところにある。「洞窟風呂のイメージですね。本当はもっと狭くしたかったのですが、それだと子供を抱っこして入れないので」。どこか幻想的なムードが漂うのは、バスタブまで敷き詰められたタイルの効果かもしれない。「タイルはずっと使えるハードウエア。素材的に好きなんです」。
力強さのあるプロダクトを
坪井さんが空間やインテリアに興味を持つようになったのは子供の頃。「姉が読んでいた『オリーブ』とかを見るのが好きだったんですね」。その感性で選ばれたものは、3階のリビングに結集。
「なんとか風というのは好きではないし、デザイナーもの、ブランドものはひとつもありません。自分がいいと思うもの、自分でデザインしたものだけを置いてインテリアにしています」。ペルシャ絨毯や大きな鳥かご、インドネシアで作ったショーケース、業務用のロイドの椅子。無国籍に選ばれたそれらは、すべてその審美眼にかなったもの。
「きゃしゃなデザインは好きではないですね。無骨で力強いもの、大量生産の工業製品が好きです。グラスで言えばバカラではなくてデュラレックス。かっこいい店でも幼稚園でも、老人施設でもはまるような強さのあるデザインのものに魅力を感じるんです」
あえて深い赤にして落ち着いた雰囲気を出したチーク材の床に、微妙なベージュトーンの腰壁が個性を添える。ソファー、テーブル、テレビボードなどは床と壁に合わせて塗り直した。ドアノブや鍵は真鍮、スイッチはアメリカ製の味のあるもの。さり気ないのだが、こだわりが随所に散りばめられている。
海辺での穏やかな暮らし
「キッチンは妻のリクエストで、パントリーを設け、人工大理石のシンク、メラミンの戸棚の扉、ミーレのクッカーやオーブンを採用しました」。元パティシエの妻は、料理やお菓子づくりがプロの腕前。その本格的な料理を家族揃って堪能する。お子さんは現在4歳の男の子。
「ふだんはリビングも子供のおもちゃが散らかっています。1階で仕事をしていて、2階で歩き回る子供の足音が聞こえる、そういうのもいいですね」。リビングの窓からは由比ケ浜の海が見える。海が一望できる屋上のテラスでは、友人らと共にヨガをしたりすることも。
「毎朝8時に、長谷寺の鐘の音も聞こえてきます。朝起きて波があればサーフィン、そのあと仕事をして、夜はブラジリアン柔術の先生もしています。本当に規則的な生活ですし、東京に住んでいた頃とは全然違った暮らしになりました。子供のためにここに引っ越してきたところが大きいけれど、ここでの生活を満喫させてもらっています」