Design
ミラノ・サローネ特集2014 -3-キッチンという小さな世界で
デザインが放つ果てしない可能性
Armani/Dada アルマーニ/ダダ
“作業”の場から“もてなし”の場へ
アルマーニ流インフォーマル・キッチン
ファッション界の帝王、ジョルジョ・アルマーニが提案する今年のキッチンは「インフォーマル」。打ち解けた雰囲気を保ちながらもシェフが招待客の眼前で優雅に料理するイメージだという。まずは、主役であるキッチンの回りをお客が囲む。そこには何もなく、一枚の重厚な大理石トップが見えるだけ。しかし、ひとたびそのトップが重そうな外見を裏切るようになめらかな動きでスライドするとステンレススチールの調理台が現れるという仕組みだ。もう1つの新作は、“見せる”キッチン。こちらは逆に「フォーマル」的な要素を含みながらもけして華美ではなく、より実用的な美しさを実現した。つややかなラッカー仕上げの木、細かい筋を無数にほどこしたガラス、そして天然石のコンビネーションが控えめに、しかし立体的な存在感を醸し出す。いずれも、アルマーニらしい徹底したミニマリズムと機能美の融合である。
Snaidero スナイデロ
時を重ねて磨き上げたデザイン
ピニンファリーナ式完璧主義
イタリアのプロダクトデザインといえばピニンファリーナ。1930年にバッティスタ・ピニンファリーナが創業し、世界有数のデザインスタジオとなった同社とキッチンメーカーのスナイデロ社がコラボレーションを開始したのが1989年。最初に発表された「Ola」は、キッチンとして最高の機能を持ちながら建築的なインパクトをも追求した画期的なモデルとして評判を得た。その往年の名作は、誕生20年を記した2010年のリモデルに続き、コラボレーション25周年の今年リミテッド・エディションが発表された。テイラー・モデルと称したそれは、クラシックでありながら斬新、住む人の個性を表現するキッチンだという。そのほかのピニンファリーナとのコラボレーションの1つ、「Idea」もリモデルが登場。把っ手などともすれば見苦しい要素をとことん排除することが同モデルの主要コンセプトだが、さらに磨きをかけ、たとえばLED照明をあらゆる場所に“隠し”、明るい視野を確保しつつ無粋な存在感を消した。微細な点にも妥協を許さない完璧主義はどこまで続くのか、今後の展開にも注目していきたい。
Aran アラン
幅広いデザインバリエーションで
世界随一の売上を達成
会場のブースを囲むウォールに各国語で書かれた「世界で一番売れているキッチン」の言葉はあけすけだがインパクトは十分。アブルッツォ州で創業以来50年、一貫した企画製造を誇るアラン社は、南イタリアに多い大規模家具メーカーの例に習い、ほどよいデザイン性とこなれた価格がセールスポイントだ。モデルはコンテンポラリーとトラディショナルに分かれ、特にコンテンポラリーのバリエーションは20を数える。鮮やかなカラーをアクセントにしたり、ブラウンベージュの落ち着いたトーンでまとめたり、多様なニーズに対応したラインナップは見ていても楽しい。また、特許を取得した独自の技術である、パネルの色やモチーフを簡単に替えられる「カバー」などユニークなアプローチも、顧客とのより近い関係を目指し、築き上げてきた証左である。
Mobalpa モバルパ
フランスから唯一出展
パリのアパルトマンスタイル
ユーロキッチンのブースのほとんどはシステムキッチンをそのまま展示するだけだが、なかには調理実演を行っているところもある。フランスからただ1社出展したモバルパ社は、“グルマン”精神をアピール、本国から招いたパートナーシェフによるフランス料理(しかも前菜、メイン、デザートのコース)とワインで来場者をもてなした。フランス人にとって食べることは本質、キッチンはフランス式暮らしの芸術の場なのだと訴えるためである。展示されたモデルはすべて、19世紀にオスマンが行ったパリ改造計画で整備されたアパルトマンをイメージし、モール飾りのしっくい壁と木の床で構成された空間に据えることを念頭にしたという。各少々突出したモダンデザインで、それが返ってレトロな雰囲気を醸し、19世紀パリ・アパルトマンにおそらくぴたりと嵌まるだろうと思わせた。
Schiffini スキッフィーニ
船舶インテリアに通ずる高機能かつ
独創的リニアなデザイン
イタリアでスキッフィーニといえば誰もがデザインキッチンのメーカーだと思う。それほど知名度のある同社は、1925年にイタリア海軍の基地トスカーナ州ラ・スペツィアで船の内装を手がける会社として創業、のちの40年代終わりにシステムキッチンの会社に生まれ変わった。現在、船舶インテリアには系列会社が携わり、同社はキッチン専門メーカーとなっているが、イタリアで初めて組み合わせ自在のシステムキッチンを開発した技術とデザイン力は創業当時から連綿と受け継がれている。今年のサローネでは、ブースを5つに仕切り、それぞれを50年代を彷彿させるポップな色に塗り分け、白無地とステンレスで構成されたキッチンとのコントラストを強調したり、濃い色の背景に負けない強い色のキャビネットを置くなど、キッチンそのものもさることながら展示の視覚的なインパクトが来場者を引きつけていた。
Cassandra Cucine カッサンドラ・クチーネ
予言は実現して初めて真実となる
誰もが驚いた“夢”のキッチン
ユーロクチーナの会場の一番端、ちょうどバールに向かい合う場所にこつ然と現れた曲線を描く物体。その不思議なオブジェのようなものを呆然と眺めながら人々はパニーノを頬張る。それが一体なんなのかを確かめようと近づく人はあまりいない。カッサンドラ・クチーネはそんな近寄り難い雰囲気を持った超絶デザインキッチンなのである。創業者であるピッタロキリス氏は、一般常識を超えた曲線デザインを家のなかの最も核となる、そして最も保守的な場所に持ち込むことを夢見て、そして実現した。誰もが信じなかったものを形にすること。それがギリシャ神話の、誰もが信じなかったが、いつもそれは真実だったカッサンドラの予言に重なるというのが、同社のネーミングの由来だ。不吉な名前をあえて冠したキッチンは100%オーダーメイドである。
ミラノ・サローネ特集、続きはこちら
ミラノ・サローネ特集 第1回「木とデザイン」
ミラノ・サローネ特集 第2回「イタリアデザインの未来」
ミラノ・サローネ特集 第3回「キッチンの可能性」
ミラノ・サローネ特集 第4回「イタリアン・キッチン」
ミラノ・サローネ特集 第5回「サローネ・サテリテ・アワード」
ミラノ・サローネ特集 第6回「サローネ・サテリテの注目作品」