Design
ミラノ・サローネ特集2013 – 1 –小さくてもすごい!
デザインの精神が端的に表れる椅子
Moroso モローゾ
椅子という家具にこめた
人間と社会の移り変わり
単にモローゾと言うだけで、パトリツィア・モローゾを指す場合がある。1952年にイタリアのフリウリ・ヴェネツィア・ジューリア州ウーディネに創業したソファ専門メーカーは、パトリツィアによって世界的企業に成長した。同社のアートディレクターとして彼女は積極的にデザイナーを発掘し、デザインの新しい試みを追求し、家具というもののなかに人間と人間が生きる今という時代を映し込もうと奔走してきた。ためらうデザイナーに対しては「まずやってみましょう。そして着地点を考えましょう」と語り続けてきた。こうして、イタリアの家具メーカーとしては最もアート系、それもポップアート系の最先端としての地位を確立したのである。モローゾの家具は、それがそこにあるだけでどんな空間なのかを決定するだけの力がある。強烈な個性はともすれば扱いが難しいが、それがぴたりとはまった時の効果は計り知れない。家具の一つ一つをどんな空間にどうあしらうか、それを考えさせるのがモローゾの狙いなのかもしれない。
A Lot Of Brasil ア・ロット・オブ・ブラジル
ラテンアメリカ発
“楽しくなければ椅子じゃない”
とにかく、見ていて楽しい。椅子なのによく見ればハンガーを使っていたり、人間が着る洋服のようだったり。蛇腹に伸縮、カーブも自在なベンチや、メイドの服からインスパイアされた椅子など、一つ一つがまるで謎解きである。2004年に設立された「ア・ロット・オブ・ブラジル」はデザイン・コンセプト・ストアを名乗り、ブラジルの若手デザイナーの発掘とともに、イタリアを始めとする世界で活躍するデザイナーとコラボレーションする。目的は「デザインの大衆化」、より良いデザインをより多くの人と共有すること。現在はブラジル国内が活動の中心だが、今後は世界各地に拠点を広げていくという。
Artifort アーティフォート
子供時代の椅子が
その人の将来を決める?!
サローネの会場で、子供用の家具を展示しているところは少なくない。しかし、それはいかにも子供向けといった感じで、大人が考える“子供はこういうのが好き”の範囲に収まっているように見える。果たして全ての子供がお仕着せに満足できるのだろうか。子供って、大人と同じものを持ちたがることがあるのじゃないか。オランダのメーカー、アーティフォート社は、「パパやママと同じ」ことを求める子供達のためのジュニアシリーズを提供している。要は既存のモデルのダウンサイジングだが、大人向けのものと同じデザインのはずなのに印象が違う。空間に1つあるだけでアクセントになる。同社も「子供が成長したら、ルームアクセサリーとして置いてほしい」と言う。ちなみに、子供用とはいえしっかり作られているので、大人が座っても問題はない。
de Sede デセデ
機能性が美を作る
スイス的コンフォート
ヨーロッパには馬具製造の長い歴史があり、馬具工房から世界的ブランドに発展したメーカーもある。ドイツ国境に近いスイスのクリングナウで鞍を製造する家族経営の工房が1965年に皮革家具製造メーカー「デセデ」社として創業。以来、手作りの高級家具ブランドとして着実に歩んできた。ドイツの家具メーカーを経て現在はスイスの投資会社の傘下にあるが、製造は一貫してスイス現地工場で行っている。「デセデ」のフラッグシップはアームチェア、そしてソファ。どちらも徹底的に人間工学に基づいたコンファタブル追求型、そして最高級の革を使うところがポイントである。毎年、新モデルを発表しているが、型破りな新作はほとんどなく、改良に改良を重ねるマイナーチェンジが主流。今回発表された新作もすべて見た目はオーソドックス。ただアクセサリー的家具には遊び心も忍ばせているようで、アシンメトリーなローテーブルが目を引いた。とはいえ、全体的にはデザインといい、機能性といい、スイス的堅実そのもののメーカーである。
Gervasoni ジェルヴァゾーニ
時代の先端を走る
伊老舗家具メーカー
ひと際、人が集まっていたブース。そのほとんどはイタリア人である。つまり、イタリア人の間で人気のブランド。キャッチーなファブリック使いが特徴的なカジュアルな雰囲気のソファや収納家具のメーカーで、近年はベッドも展開している。北イタリアのフリウリ・ヴェネツィア・ジューリア州のパヴィア・ディ・ウーディネに1882年に創業。現在は3代目が営む老舗である。しかし、製品には“老舗”感はまったく見られない。ターゲットは明らかに若い世代で、例えて言うなら、ミラノのリナシェンテ百貨店で日常的に買物をするような人々に好まれそうである。従来のイタリアモダンとは異なる、国籍不明なヨーロピアンスタイルが北イタリアの比較的富裕な若い層に受けている。
Giorgetti ジョルジェッティ
クラシックと新味を
絶妙な配分で昇華
ミラノから北へ約30キロ、19世紀後半から木製家具製造の伝統を受け継ぐ街メダを本拠とする「ジョルジェッティ」社は、イタリアの老舗家具メーカーとしてその名を知られた存在である。1898年に正式に工房として開業、当初はもちろん木製家具に特化した製品作りであったが、時代とともに扱う素材もアイテムも増え、トータルな空間コーディネートを提案している。ただやはり、ジョルジェッティの真骨頂は木の扱いにある。自然木を加工して生まれるエレガントでスノッブなフォルムは一朝一夕にできるものではない。また、その技術は第一線で活躍するデザイナーとの提携により、さらに進化を続けている。今年は喜多俊之氏を始めとする5組のデザイナーの新作を発表した。テーマは自然との共存。ブースにはガラス張りの温室を仕立て、グリーンをたっぷりと配し、その下にアームチェアを点在させる。照明は落とし気味で、密林のなかにいるかのような雰囲気。そこにくっきりと浮かび上がるアームチェアの木製のフレーム。ブースにはそのほかにも数多くの家具が展示されていたが、格別に目を引く演出であった。
OFFECCT オフェクト
コンパクト&コケットな
スウェーデン式機能美
いわゆる北欧デザインである。シンプルで無理を感じさせないライン、美しい発色もしくはごく控えめなモノトーン。スウェーデンで1990年に創業した比較的若い家具メーカー「オフェクト」社は、歴史の浅さをものともせず、北欧デザインを生かし、かつニーズをうまく汲み取ったストラテジーで着実に足場を築き上げている。インターナショナルに活躍するデザイナーとのコラボレーションも積極的だが、コントロールも巧みに“オフェクトらしさ”を維持し、製品ラインナップを見渡したときの一貫性は揺るぎないものがある。クライアントは主にオフィスやパブリックスペース。殊更な主張をせず、しかしセンスの良さが要求される場所にふさわしいソファや椅子、デスク、さらには壁面装飾までを手がけている。
Porro ポーロ
計算しつくされた
何気ないデザイン
1925年にミラノの北、ブリアンツァに創業した「ポーロ」社。当時のミラノの新興ブルジョワジーに向けた上質な家具製作で業績を伸ばし、現在はサロンから寝室までトータルな空間コーディネートを提供するイタリア有数のメーカーとして知られている。特に収納家具の分野では、リニアなデザインと接合部分やレールといった“見苦しい”ものを露出させない高い技術を誇る。今回の展示では、一戸の家の一日を再現するというテーマのもと、リビング、ダイニング、ホームオフィス、寝室、屋内庭園などさまざまなシーンを提案。木、スチール、ガラスなど素材を多彩に操りながらダークな色調にまとめ、都会における現代のブルジョワジーのための、さりげない中にもゴージャス感漂うコーディネートを展開していた。多くの人の目が集中したのはやはり収納家具だったが、そのほかも細部に渡って完成度は高く、片隅に置かれていた椅子ですら、そのデザイン、座り心地ともに誠に優れていた。
Tonon トノン
小さいながらも存在感。
空間の要となる椅子
全体的に丸みを帯びたコンパクトなデザイン。四方に広がる脚がまるで足を踏ん張る子供のように見える。けしてコミカルを意図したデザインではないのに、どこか“ゆるキャラ”のような和みを漂わせるのが、「トノン」の椅子だ。同社は、イタリアのフリウリ・ヴェネツィア・ジューリア州ウーディネに1926年に創業した家具工房をもとに1950年代に規模を拡大し、現在ではヨーロッパを始め世界各地に椅子を中心とする製品を輸出する一大メーカーである。イタリアらしい明快なデザインだが大仰なものはなく、どんな空間にもすんなり溶け込みそうなところが特徴で、ダイニングにもオフィス空間にもどちらにもいけるうえ、室内にちょっとしたアクセントを与えてくれる。これぞまさしくイタリアン・スピリットではないだろうか。
SICIS シチス
自然のなかに見いだす
アーティフィシャルの素
毒々しいまでの色と形。熱帯の密林に生息していそうな植物や昆虫をモチーフにしたとおぼしきソファやオブジェは、見る人によっては嫌悪感を催すかもしれない。しかし、その存在感たるや圧倒的で、もはや家具というよりはコンテンポラリーアートの世界。そしてこの「シチス」社が掲げる言葉が「Next Art」とあっては、ここはいわゆる家具メーカーではないのだと納得せざるを得ない。同社の本拠はイタリア、エミリア・ロマーニャ州ラヴェンナ。ラヴェンナにはビザンチン様式のモザイクが美しいサン・ヴィターレ聖堂があり、同社はヴェネツィアガラスのモザイク装飾を本業とする企業だ。現在はモザイクからジュエリー、そして家具へと事業を広げている。どの分野も極めて強烈な世界観に貫かれ、自然に想を得ながらもそれを徹底的にアーティフィシャルに仕上げるところはいっそ清々しい。
ミラノ・サローネ特集、続きはこちら
ミラノ・サローネ特集 第1回「椅子」
ミラノ・サローネ特集 第2回「トピックス」
ミラノ・サローネ特集 第3回「照明」
ミラノ・サローネ特集 第4回「注目の若手デザイナー」