Design
ミラノ・サローネ特集2013 – 2 –ただならぬオーラを放つ
ユニーク・デザインの世界
CITCO チトゥコ
ZAHA HADIDが描く
異空間的デザイン
イラク出身、女性として初、また最年少でプリツカー賞を受賞した建築家ザハ・ハディドは、老朽化による再建が予定されている代々木新国立競技場のデザインコンペで最優秀賞を獲得したことにより、日本でも知名度が急上昇。そのデザインがあまりに“非現実的”なため、実現が困難なことでも知られるが、山は高いほど魅力的の例えどおり、実際に形にしたいというオファーがありとあらゆる分野から彼女の元にやってくる。技術を持つ者にとって、そのデザインを実現することは抗い難い魅力なのだろう。イタリア・ヴェローナの大理石加工会社チトゥコも不可能に挑戦するだけの高い技術を誇るメーカーだ。2012年のサローネ開催中に、会場外でハディンによるデザイン画を展示。会場内初出展の今年、満を持してそのデザインを実物化した。イタリアの大理石といえば、ミケランジェロもその採石場に籠ったというトスカーナのカッラーラが有名だが、イタリアはほぼ全土にその土地特有の石がある。ヴェローナも古代劇場アレーナを見ればわかるように、天然石の産地としては由緒正しい。チトゥコ社は地元産の白と黒それぞれの大理石を使い、工作機械を特別にあつらえてハディドのデザインをローテーブルに仕上げた。3タイプ各12個の限定製造である。
FIAM フィアム
二重構造の鏡が誘う
妖しき不思議の国
イタリア・マルケ州ペーサロに創業して40年のガラス製品メーカー、フィアム社。創業者ヴィットリオ・リーヴィとその2人の息子が中心となって、多くの有名デザイナーとコラボレーションし、あるいは若手デザイナーを発掘し、ガラスという素材のあらゆるデザイン的昇華を試みている。職人技術と先端的デザインを両輪とするのはイタリアのお家芸だが、時として、機能性は無視される場合も少なくない。誰もまだ到達していない点に最初に立つこと、それがイタリアの物作りの原動力の一つだから、ある程度の行き過ぎは仕方のないことかもしれない。フィアム社の製品も、その点ではきわどいものも幾つか散見されるが、一度目にしたら脳裏に焼き付いて離れないものを作り出す力は天晴れである。創業40周年の今回は、マッシミリアーノ・フクサスとダニエル・リベスキンドの2人に特別製作を依頼。また、5人の若手デザイナーに過去の同社製品のリメイドを競作させた。ブース内にはテーブルやシェルフなども多く展示されていたが、目を引いたのはフクサス・デザインの2つの鏡「Lucy」と「Rosy」、そして、リベスキンドではなくザビエル・ルストによるやはり鏡の「Caldeira」だ。鏡という物は縦横斜め、壁掛け、床置き、望めば天井嵌め込みも可能な、使い手の自由な発想を妨げない珍しい家具である。逆を言えば、ワンパターンな使い方で己の創造力のなさを思い知らされる家具である。ということを無言に語りかけてくる展示であった。
Giuseppe Rivadossi ジュゼッペ・リヴァドッシ
彫刻家が行きついた
アートという名の家具
一種異様な雰囲気を漂わせるブースだった。けしてネガティブな意味ではなく、良い悪いを超えたとてつもない引力のようなものを発していた。ごつごつとした無垢の木の、樹齢を重ねた木だけが持つ精霊があたりを制していたのかもしれない。ジュゼッペ・リヴァドッシという彫刻家が作り出すキャビネットやテーブル、椅子は一般的には無骨とも映るかもしれない。かんなをかけた跡、彫刻刀の削り跡もなまなましい家具は、職人の試作品にも見える。だがよくよく見てみるとそれらは全て緻密な職人的技とセンスの結晶であることがわかる。手作りの味わいが折り重なった果てにたどり着いた一種のアートなのである。アートはそこにあるだけで完成し、周囲の空間をも巻き込んで独特の色をなす。ジュゼッペ・リヴァドッシの家具一つがあることによって、その部屋がどうなるかを想像すればおわかりいただけるだろう。イタリア・ロンバルディア州ブレーシャ県郊外に生まれ、同地にアトリエを構えて今年で37年。ジュゼッペ・リヴァドッシ工房は今、2人の息子に支えられ、完全受注製作を請け負っている。
Kubedesign キューブデザイン
エコなのか否か。
段ボール家具の未来
エコロジカルとか、サステイナブルといった言葉は、ここ数年のキーワードであるがゆえに濫用や便乗も見受けられる。リサイクル素材の筆頭ともいえる段ボールも、ただ使えば良いというものではない。使った後にきちんとリサイクルされるかどうかが問題であり、そのシステムが整った環境でなければたとえ段ボール製の家具であってもけしてエコとは言いきれないのである。とはいえ、段ボール家具の可能性を追求することは不可欠である。可能性や汎用性が高まればリサイクルのシステムもビジネスモデルの確立も促進されるであろう。その牽引役を担うべく活動している若きデザイナー集団が、キューブデザインだ。イタリア・マルケ州アンコーナ近郊に拠点を構え、椅子、テーブル、チェスト、ベッド、照明に至る幅広いプロダクツを展開している。コミカルなデザインとインパクトのある色使いは若者向けのイベントやテンポラリーショップなどに人気だが、2010年春、マルタ島へのローマ法王訪問の折りに現地のヴァチカン支庁舎の特別内装を請け負うなど活躍の場はバラエティに富んでいる。段ボール家具は耐久性の問題もあるが、リサイクルシステムが機能すれば、その未来は明るい。
Teckell テッケル
冷たい素材から伝わる
イタリアの熱い情熱
多くの人に受け入れられなくても、ごくわずかな人が、さらに言えば自分だけが満足できればそれでいい。周りに迷惑をかけない限り、そんな求道的行為が普通に受け入れられているのがクラフトマンの世界である。しかし、良いものができればそれを人に披露したくなるのが、イタリアのクラフトマンの性である。ガラス加工、床など平面の特殊表面加工の技術を有するピエモンテの企業B.LAB ITALIA社が、兄弟2人のインダストリアル・デザイナーAdriano Designとコラボレーションして生まれたのが、卓上フットボールゲーム盤ブランドTeckell。イタリアの田舎のバールの片隅に必ずあった(今もある)懐かしの遊具を、クリスタルガラスとアルミニウムでまばゆいばかりに仕上げる。さらに、24金コーティングやウッドとのコンビネーションバージョン、オブジェとしてあるいはギフト需要も見込んだミニサイズなどもある。クールなマテリアルを駆使して、イタリアのばかばかしいほどに熱い職人の情熱を注ぎ込んだ製品。モノがサッカーだからという理由もあるかもしれないが、なんにしてもイタリアの職人魂をこれほどに漲らせるものも少ないだろう。
CECCOTTI COLLEZIONI チェッコッティ・コッレツィオーニ
独自の世界を築く
繊細で流麗なライン
トピックスという枠組みのなかでは比較的“まっとう”なブランド。繊細かつ流麗なフォルムは、だが、他とは明らかに一線を画す独自のスタイルだ。トスカーナ州ピサ県に本拠を置く同社は、木製家具の受注生産という形式から、1988年に一般向け家具製作に移行。ロベルト・ラッゼローニをアートディレクターに迎え、木という素材を自在に操る優れた伝統技術と斬新なデザインの融合で名声を勝ち得た。今年で25年という節目の年を迎え、会場では過去のエポックメイキング的作品とともに新作も展示。デザイナーの1人であるヴィンチェンツォ・デ・コティスが展示のディレクションを務めた。
mdf エムディーエフ
古くて新しい
回転する収納
ミラノに本社を構える「エムディーエフ」は、その名前が示すようにファイバーボードを中心素材に使用する家具メーカーである。軽く丈夫なこの素材をできるだけシンプルにデザインすること、また特に収納家具においては多彩なバリエーションを用意し、クライアントの要望に柔軟に対応できることを使命と心得ている。椅子やテーブルからソファやベッドまでラインナップは幅広いが、目を引くのはやはり収納。昨年発表されたモデルだが、「インモーション」はアンティーク家具によく見られるシークレット・ドロアーに着想したもの。回転小棚を必要に応じて開いたり隠したりすることによってフラットな収納家具にデザインインパクトを与えている。
Flou フルー
プライベートな空間は
シンプルに贅をつくす
1978年に創業したベッドを中心とする家具メーカー「フルー」は、“ベッド革命”を起こしたことで知られる。それ以前は、ベッドは単に寝る場所だったが、より快適な睡眠をもたらし、プライベートライフを充実させる重要なエレメントであることを唱え、ベッドそのものの構造はもちろんのこと、より優れて心地よいベッドリネンの開発を続け、イタリア随一の高級ベッドメーカーとしての地位を築きあげた。現在は、およそ40のモデルを数えるベッドのほかに、ベッドサイドテーブル、ドレッサー、収納などをラインナップに揃え、プライベートな空間のトータル・コーディネートを提案している。ベッドの美しさはもはや言うまでもないが、しかし実際、ベッドというアイテムはあまり遊べない家具である。やりすぎると機能性をおろそかにしてしまう恐れがある。その点、ほかの家具は多少の冒険もできる。たとえば、衣装ケース風のライティングデスク。外側は革張り、内側は鏡張りで、閉めておけば控えめな佇まい、開くと光を反射してきらびやかという、二面性が楽しい。必ずしもなくてはならないというものではないが、だからこその贅沢なのである。
luardi ルアルディ
鮮やかな色彩で
収納を“魅せる”
一点のくすみもない明快な色とまるでガラスのような光沢。一見してなんのメーカーかわからなくても、その色と光に引きつけられるのかブースには多くの人が集まっていた。ミラノ郊外で1880年に注文家具製作工房として始まった「ルアルディ」社は、1960年に高い技術を持つドア専門メーカーとして業界の先陣を切った。以来、主にパブリックスペースのドアを手がけ、デザイナーとともに先進的なデザインを打ち出して、単なる建物の一要素からインテリアの要としてのドアの地位を高めることに尽力している。また、ドアからスタートして、収納家具、システム家具にもその分野を広げ、オフィスや一般住宅といった比較的小規模な顧客も次第に増やしている。そうしたエンドユーザー向けにニュートラルカラーやモノトーンもラインナップしているが、あえてカラフルに仕立てて隠すべき収納を見せるという手法もまた一興。しかし、何よりも特筆すべきはドアという製品としての完成度が高いこと。どんなに背の高い重そうに見えるドアもごく軽く開閉できるのはさすがである。
Rimadesio リマデジオ
ディテールの美しさが
全体の美を醸し出す例
シンプルで美しいとひと言でいっても、とことんそぎ落とした先鋭的なミニマリズムから、自然そのままの粗削りを良しとするプリミティブ主義までその形態はさまざまある。「リマデジオ」社はそのちょうど中間を行くような、人間の叡智と自然との共存を形にしたようなインテリアを世に送り続けている。1956年、ミラノ郊外のブリアンツァ県デジオに「リマ・ヴェトライア」というガラス加工会社が誕生。ほどなく現社名となり、ガラスを中心に木材やプレキシガラスなどさまざまな素材加工の技術を磨き、建築資材としてのガラスから、扉やパーティションなど内装パーツ、そして家具にまで斬新な試みとデザインを追求してきた。薄く、あるいは細く、そしてごく軽い。その繊細な美しさは接合部分などの細部にも行き渡り、完璧な美を演出している。が、それでいて息が詰まるような閉塞感はなく、のびのびとした自然体といった趣なのだ。同社では100%リサイクル可能な素材(ガラス、アルミニウム等)にこだわり、緑豊かな土地にある本社工場のエネルギーはソーラーシステムで賄う。こうした姿勢が製品作りに投影されているのだろう。
ミラノ・サローネ特集、続きはこちら
ミラノ・サローネ特集 第1回「椅子」
ミラノ・サローネ特集 第2回「トピックス」
ミラノ・サローネ特集 第3回「照明」
ミラノ・サローネ特集 第4回「注目の若手デザイナー」